障害者歯科医療での全身麻酔2024年08月27日

全身麻酔
昨年7月、堺市重度障害者歯科診療所で全身麻酔による抜歯治療を受けていた特別支援学校生(当時17歳)が適切な処置を受けずに死亡した。大阪府警は、業務上過失致死容疑で歯科医師の男性所長(55歳)と女性(34歳)を書類送検した。事件は、全身麻酔中に鼻から挿管したチューブの先端が気管から外れたにもかかわらず、適切な処置が行われなかったことが原因とされる。府警の調査によると、血中酸素飽和度が急低下した際、2人は気管支けいれんを疑い気管支拡張剤を投与したが効果はなく、心肺停止状態となり別の病院に搬送された。所長は「チューブの位置を確認しなかったことがミスだった」と供述し、女性は「気管支けいれんの処置に固執してしまった」と述べている。府警は、異常を認識した後すぐにチューブの位置を確認せず、救急要請も遅れたことが死亡につながったと判断し送検した。重い知的障害などを伴う人への歯科医療は困難だ。障害者歯科医療施設は、ASD等の障害特性に応じた診療(視覚的支援)や全身麻酔による治療も行えるので障害者の歯科治療の砦ともいえる。自分も何人かの重度の知的障害の生徒の保護者に全身麻酔治療を勧めたことがあるので、この事故は本当に残念だ。

全身麻酔は人工呼吸管理が必須となるので麻酔医が必要となる。麻酔医資格取得には、医師免許取得後麻酔医指導の下2年の臨床経験が条件だ。だが、歯科治療の範囲内なら全身麻酔であっても麻酔医を必ずしも置く必要はなく、学会認定の歯科麻酔医が関わる。歯科麻酔医認定の条件は、200例以上の全身麻酔症例(歯科症例を100例以上含む)と50例以上の鎮静症例を担当した臨床経験が必要とされる。歯科麻酔学会ができたのは1980年代なので2000年代には全身麻酔が歯科麻酔医によって普及し、各地で障害者歯科診療所が開設された。歯科医師免許だけの歯科医が全身麻酔を行うから事故が起こるという中傷は歯科麻酔医の存在を知らないのだろう。麻酔医も歯科麻酔医も学会認定だが、麻酔科医を標榜するには厚労省の認可が必要で、認可されれば歯科治療を含むすべての麻酔医療に関われるという違いはある。だが、現場での麻酔の専門家という意味では変わらない。今回の事故は、気管に呼吸器チューブ挿入が確認されずに事態が悪化したという初歩的なミスで障害者歯科医療が杜撰だという印象を与えてしまうが、歯科麻酔医だから起こった事故ではないと思う。
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