DV聴取は脳ダメージが大2025年03月02日

言葉によるDV聴取の方が脳へのダメージが大
友田明美氏の講演会に参加した。友田氏はマルトリートメント(不適切な子育て)とその予防に取り組む医師で、熊本大学発達小児科から米マサチューセッツ州の病院を経て、ハーバード大学医学部精神科学教室の客員助教授を歴任。現在は福井大学医学部教授を務めている。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」や「クローズアップ現代+」などのメディアにも多数取り上げられており、その業績は広く知られている。彼女の研究の特筆すべき点は、小児の脳画像技術を用いて虐待を受けた子どもの脳の変容を可視化し、そのエビデンスを日本に広めたことである。医学では因果関係の解明は当然の手法かもしれないが、原因と結果を明示することが、虐待の深刻さを社会に説得力をもって伝える大きな役割を果たしている。講演会場には約350人の保護者や関係者が詰めかけ、関心の高さがうかがえた。言葉による虐待(暴言虐待)は脳に深刻な影響を与える。暴言を受けた子どもの聴覚野の一部は平均14.1%増加し、暴言の程度が強いほど影響が大きくなる。また、言語理解に関わる弓状束の異常も発見された。これは暴言によって過剰なシナプス形成が進み、神経伝達の効率が低下する可能性を示している。一方で、過度の体罰も脳にダメージを与える。厳格な体罰を受けた人は右前頭前野内側部が19.1%、右前帯状回が16.9%、左前頭前野背外側部が14.5%減少し、これらの損傷はうつ病や素行障害のリスクを高めることが報告されている。

特に注目すべきは、夫婦間の不和による子どもの脳へのダメージだ。児童虐待防止法では、夫婦間のDV目撃は心理的虐待の一種と定義されている。DVを目撃した子どもは知能や語彙理解力に影響を受けやすく、11〜13歳の時期に悪影響が強まる。DVを平均4.1年間目撃した子どもは視覚野(舌状回)の容積が平均3.2%減少し、さらに言葉によるDVを聴取した場合は19.8%も減少していた。複数の虐待タイプが重なると影響は深刻化し、DV目撃と暴言聴取の組み合わせが最も重篤なトラウマ症状を引き起こすことが示されている。親の暴言やDV目撃は、身体的虐待以上に精神的ダメージを与える可能性があることから、非身体的虐待の深刻さをより重視すべきという話が印象的だった。もちろん脳は可塑性の高い臓器であり、治療は可能だが、幼少期のダメージは大きく、回復にも長い時間が必要である。自身を振り返れば、直接的な虐待も間接的な虐待も何度もやらかしてきたことに胸が痛くなる。特に暴言にさらされた経験は自分の幼少期の記憶にも強く残っている。科学の力で虐待の連鎖を断ち切る時代になったことに、勇気をもらった。
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