煙の向こうに見えるもの ― 2025年10月10日
昨日、那覇発羽田行きANA994便の機内に、突然、白い煙が立ち上った。原因は乗客が持ち込んだモバイルバッテリー。乗務員の冷静な初動で鎮火し、けが人は出なかった。だが、この小さな煙は、空の上から日本の「安全神話」に静かに穴をあけた。ここ数年、モバイルバッテリーの発火・発煙はもはや季節の風物詩である。8月には東海道新幹線「のぞみ411号」と上越新幹線「とき300号」で発煙が相次ぎ、9月には東京都杉並区のマンションで充電中のバッテリーが爆ぜ、6人が軽傷を負った。いずれも“激安・無印・ノーチェック”の中国製が関係している。
中国では今年上半期だけで135万個を超えるバッテリーがリコール対象となり、9000社が認証停止、600社が認証取り消し。もはや“発火の量産国”と化している。原因は、セパレーター破損、過充電、異物混入、温度管理不良と、もはや「炎上理由の総合商社」だ。
一方、日本ではネット通販を経由してPSE未取得の製品が野放し状態。経産省と消費者庁が注意喚起を繰り返しても、制度の網は相変わらずザル。Amazonの“ワンクリック”が、火災保険の対象を試すボタンになりつつある。
私たちは「スマホの充電」という日常行為で、いつでも小さな爆弾を抱えているのだ。その一方で、日本の技術陣は新たな解答を模索している。ナトリウムイオン電池、酸化物系全固体電池など、“燃えない”電池の開発が静かに進む。日本電気硝子(NEG)が開発する酸化物系ナトリウム電池は、ガラス封着技術によって200℃を超えても安定動作し、発火リスクを構造的に封じる。原料のナトリウムは海水由来で、リチウムのように産地リスクにも左右されない。資源・安全・コストの三拍子がそろった理想解だ。
安全技術で世界をリードしてきた日本は、PSEやUN38.3などの国際規格と整合をとりつつ、医療・公共交通・教育分野への導入を進めている。だがその裏で、中国やフランスは早くも量産を開始。「安全確認より市場シェア」が合言葉のように走り出している。米国のNatron Energyが技術未熟のまま商業化に踏み切り、結局は事業停止に追い込まれたのは、スピード競争の愚を象徴している。
ナトリウムイオン電池は、リチウム電池が刻んだ“発火の系譜”を断ち切れるのか。鍵を握るのは、技術の成熟度と制度整合性、そして「慎重さ」を失わない開発文化だ。量産で勝負する国は数あれど、「安全で勝負できる国」はそう多くない。日本はその希少な一つであるべきだ。
空の上で立ち上った一筋の煙は、地上の技術と制度に向けた“警告信号”だった。この狼煙を、見なかったことにしてはいけない。
中国では今年上半期だけで135万個を超えるバッテリーがリコール対象となり、9000社が認証停止、600社が認証取り消し。もはや“発火の量産国”と化している。原因は、セパレーター破損、過充電、異物混入、温度管理不良と、もはや「炎上理由の総合商社」だ。
一方、日本ではネット通販を経由してPSE未取得の製品が野放し状態。経産省と消費者庁が注意喚起を繰り返しても、制度の網は相変わらずザル。Amazonの“ワンクリック”が、火災保険の対象を試すボタンになりつつある。
私たちは「スマホの充電」という日常行為で、いつでも小さな爆弾を抱えているのだ。その一方で、日本の技術陣は新たな解答を模索している。ナトリウムイオン電池、酸化物系全固体電池など、“燃えない”電池の開発が静かに進む。日本電気硝子(NEG)が開発する酸化物系ナトリウム電池は、ガラス封着技術によって200℃を超えても安定動作し、発火リスクを構造的に封じる。原料のナトリウムは海水由来で、リチウムのように産地リスクにも左右されない。資源・安全・コストの三拍子がそろった理想解だ。
安全技術で世界をリードしてきた日本は、PSEやUN38.3などの国際規格と整合をとりつつ、医療・公共交通・教育分野への導入を進めている。だがその裏で、中国やフランスは早くも量産を開始。「安全確認より市場シェア」が合言葉のように走り出している。米国のNatron Energyが技術未熟のまま商業化に踏み切り、結局は事業停止に追い込まれたのは、スピード競争の愚を象徴している。
ナトリウムイオン電池は、リチウム電池が刻んだ“発火の系譜”を断ち切れるのか。鍵を握るのは、技術の成熟度と制度整合性、そして「慎重さ」を失わない開発文化だ。量産で勝負する国は数あれど、「安全で勝負できる国」はそう多くない。日本はその希少な一つであるべきだ。
空の上で立ち上った一筋の煙は、地上の技術と制度に向けた“警告信号”だった。この狼煙を、見なかったことにしてはいけない。