ウナギ交渉の行方 ― 2025年12月02日
ニホンウナギをめぐる国際交渉で、日本は“逃げ切った”ように見える。だが、この勝利は賞味期限が短い。ウズベキスタン・サマルカンドで開かれたワシントン条約第20回締約国会議(CoP20)で、EUとパナマが推したウナギ属全種の規制案は否決。日本、韓国、中国、米国が反対に回り、票決では押し切った形だ。しかし、会議場の空気は明らかに逆風だった。「今回は引くが、3年後の次回は譲らない」。各国の代表から漏れた言葉は、そのまま国際社会の総意に近い。理由は単純だ。資源が減っており、しかも減り続けている。
ニホンウナギはマリアナ諸島西方で産卵し、黒潮に乗って日本へ回遊する“海の旅人”だ。だが近年は黒潮の大蛇行が長期化し、海水温も上昇。稚魚(シラスウナギ)の来遊量は、豊漁と不漁が乱高下する“ジェットコースター状態”に陥っている。統計上の“豊漁年”がまれに現れても、それは資源回復ではなく、単なる揺らぎである。
そして、日本にとって最も厄介なのが、中国・台湾の漁獲報告の不透明さだ。国際調査では、報告量と市場に出回る数量が著しく乖離し、「捕れていないはずの稚魚」が大量に流通している事例が確認されている。高値で取引される稚魚は、密漁・横流し・無報告のインセンティブが消えない。結果、合法性の証明ができないシラスウナギがアジアの闇ルートを経て市場に流れ込み、日本は“透明性の低い供給網”に組み込まれたままだ。これこそが、国際社会が日本に規制強化を迫る最大の論拠である。
資源悪化の原因は、環境変動、河川改修、沿岸乱獲──複数の要因が積み重なった複合災害だ。“そのうち自然が回復する”という楽観論は、すでに科学的にはほぼ否定されている。必要なのは、逃げ続けてきた資源管理体制そのものの刷新である。そして、その唯一の突破口となり得るのが完全養殖だ。
2010年の世界初成功以来、技術は急速に進歩し、民間企業も本格参入。現在は2028年までに商業化を狙い、大量生産とコストダウンが進む。初期価格は1尾1000〜1500円。味も従来の養殖と遜色ないという。だが、完全養殖はまだ“夢の量産技術”ではない。孵化から稚魚期までの歩留まり、生産ラインの自動化、餌のコスト──課題は山積だ。特にシラスサイズへの到達率は、技術的な壁として依然高く、量産化への最大のネックになっている。
それでも、国際交渉の場で効力を持つのは、「代替手段を確保している国」だという厳然たる現実がある。完全養殖の商業化が近い国と、いつまでも天然稚魚に依存する国では、交渉の“発言権の重さ”がまるで違う。
CoP20の否決は、日本にとって勝利ではない。むしろ、次の大会へ向けた最後の猶予だ。このタイムリミットを使い切れなければ、次に突きつけられるのは「規制強化不可避」という冷徹な判決である。そして、その審判台に立たされるのは──ウナギではなく、日本の覚悟そのものだ。
ニホンウナギはマリアナ諸島西方で産卵し、黒潮に乗って日本へ回遊する“海の旅人”だ。だが近年は黒潮の大蛇行が長期化し、海水温も上昇。稚魚(シラスウナギ)の来遊量は、豊漁と不漁が乱高下する“ジェットコースター状態”に陥っている。統計上の“豊漁年”がまれに現れても、それは資源回復ではなく、単なる揺らぎである。
そして、日本にとって最も厄介なのが、中国・台湾の漁獲報告の不透明さだ。国際調査では、報告量と市場に出回る数量が著しく乖離し、「捕れていないはずの稚魚」が大量に流通している事例が確認されている。高値で取引される稚魚は、密漁・横流し・無報告のインセンティブが消えない。結果、合法性の証明ができないシラスウナギがアジアの闇ルートを経て市場に流れ込み、日本は“透明性の低い供給網”に組み込まれたままだ。これこそが、国際社会が日本に規制強化を迫る最大の論拠である。
資源悪化の原因は、環境変動、河川改修、沿岸乱獲──複数の要因が積み重なった複合災害だ。“そのうち自然が回復する”という楽観論は、すでに科学的にはほぼ否定されている。必要なのは、逃げ続けてきた資源管理体制そのものの刷新である。そして、その唯一の突破口となり得るのが完全養殖だ。
2010年の世界初成功以来、技術は急速に進歩し、民間企業も本格参入。現在は2028年までに商業化を狙い、大量生産とコストダウンが進む。初期価格は1尾1000〜1500円。味も従来の養殖と遜色ないという。だが、完全養殖はまだ“夢の量産技術”ではない。孵化から稚魚期までの歩留まり、生産ラインの自動化、餌のコスト──課題は山積だ。特にシラスサイズへの到達率は、技術的な壁として依然高く、量産化への最大のネックになっている。
それでも、国際交渉の場で効力を持つのは、「代替手段を確保している国」だという厳然たる現実がある。完全養殖の商業化が近い国と、いつまでも天然稚魚に依存する国では、交渉の“発言権の重さ”がまるで違う。
CoP20の否決は、日本にとって勝利ではない。むしろ、次の大会へ向けた最後の猶予だ。このタイムリミットを使い切れなければ、次に突きつけられるのは「規制強化不可避」という冷徹な判決である。そして、その審判台に立たされるのは──ウナギではなく、日本の覚悟そのものだ。