中国軍が自衛隊機にロックオン2025年12月08日

中国軍が自衛隊機にロックオン
沖縄本島南東の公海上空でまたやられた。12月6日、中国空母「遼寧」から発進したJ-15戦闘機が、領空侵犯対処に当たっていた航空自衛隊F-15に対し、断続的に火器管制レーダーを照射した。火器管制レーダーと聞けば日本語的には曖昧だが、要は銃の安全装置を外して相手に向けたわけで、引き金を引けば銃撃される。戦闘機は相手からレーダー波を感知して自機が攻撃されるという警告灯が点灯し警告音が鳴る。防衛省が照射事案を公式に公表した以上、発生そのものは疑いようのない事実である。日本政府は即座に北京へ厳重抗議を叩きつけた。これに対し中国海軍は「自衛隊機が安全を脅かした」と一方的に主張し、肝心のレーダー照射そのものには触れなかった。否定も弁明もなく、事実への言及を避ける態度こそが最も雄弁な答えだ。

同じ手口は米軍に対しても繰り返されている。南シナ海、東シナ海、西太平洋のどこを飛ぼうが、中国軍機は米軍偵察機に数十メートルまで異常接近し、時には機体を逆さにして威嚇する。米国防総省が「unsafe and unprofessional」と名指しで非難しても、中国外務省の返事はいつも決まっている。「米側が先に挑発した」という責任転嫁の常套句だけだ。危険行為そのものを否定する材料は、いつまで経っても出てこない。否定できないから、黙るか、あるいは今回のように論点をすり替えるしかない。この「やっておいて黙る/すり替える」戦法が積み重なるたびに、国際社会に残るのは「中国軍がやった」という事実だけになる。否定できない事実は、やがて「常習犯」という評価に変わる。

ここで最も不気味なのは、中国共産党の中央統制が明らかに機能不全に陥っていることだ。習近平体制に入ってから、軍の高級幹部は次々と失脚し、更迭されている。ロケット軍はほぼ全幹部が入れ替わり、海軍・空軍でも「腐敗摘発」の名の下に粛清が続いている。中央が必死に締め付けている証左である。それなのに現場は止まらない。むしろエスカレートしている。独裁体制の鉄則は、中央の意思が絶対に末端まで貫徹されることだ。それが崩れるとどうなるか。現場の軍人が中央の意向を超えて行動し始めたとき、偶発的衝突は一気に全面戦争へと突き進む。歴史が証明している。1931年の満州事変も、関東軍の独走が引き金だった。

さらに見逃せない動きがある。中国は先日、国連憲章に残る「敵国条項」を外交の場でちらつかせ始めた。第二次大戦の旧枢軸国に対する特別措置で、国際社会ではすでに死文化したと見なされている規定だ。それをわざわざ持ち出すこと自体、現場の軍人に「日本に対しては特別に強硬で構わない」という暗黙のメッセージを送っているようにも読める。そう考えると、今回のレーダー照射は単なる偶発的な現場の暴走ではなく、中央の覇権主義的な言及の間隙を突いた軍事行動の一環だった可能性がある。もしそうなら、これは危険なエスカレーションの兆候だ。外交的な沈黙や論点すり替えの裏で、軍が独自に行動を拡大しているとすれば、独裁体制の統制不全を示すだけでなく、国際社会にとって予測不能なリスクを孕む。

結局、残されたファクトはこれだけだ。防衛省が発表したこと、日本政府が抗議したこと、そして中国側が照射事実に触れず責任転嫁を繰り返していること。これに米軍への度重なる危険接近、軍内部の異常な人事異動、敵国条項の再提起が重なると、見えてくる構図は一つしかない。独裁国家の軍が、中央のコントロールを失いつつある、という現実だ。軍の統制が利かない独裁ほど怖いものはない。挑発は単なる威嚇ではなく、体制そのものの綻びをさらけ出す警告灯である。そしてそのロックオン警告灯は、今、赤く点滅し続けている。

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