学校送迎時に保護者が拘束2025年12月29日

学校送迎時に保護者が拘束
「オレゴン州で、学校送迎時に保護者が拘束されている」——この噂は、完全な虚構ではない。事実として、2025年に入り、オレゴン州内では学校や保育施設の送迎時間帯に保護者が拘束された事例が複数確認されている。地域報道や支援団体の集計によれば、その件数はポートランド都市圏を中心に十数件に上る。ただし、ここで決定的に重要なのは、その内実だ。これらの事例はいずれも、永住権(グリーンカード)を正式に保有する保護者が対象となったものではない。 多くは、ビザ超過滞在や申請中の不安定な在留資格を理由とする個別執行であり、「永住権を持っていても連行される」という理解は事実と異なる。

象徴的なケースとして知られるのが、ビーバートン市で起きたマフディ・カンババザデ氏(38)の拘束だ。モンテッソーリ系学校の駐車場で子どもを送り届けている最中に拘束され、その映像が拡散したことで、「学校送迎=危険」というイメージが一気に広まった。しかし彼は永住権保持者ではなく、学生ビザの超過滞在を理由とした執行対象だった。この一点が、噂の中で意図的、あるいは無自覚に抜け落ちている。

オレゴン州内では他にも、学校近辺や移民裁判所周辺での拘束事例が報告されているが、共通しているのは、執行対象が在留資格上の問題を抱えていた個別ケースであるという点だ。永住権保持者や米国市民が送迎中に恒常的に拘束されている事実は確認されていない。

それでも恐怖が拡散する背景には、拘束数の急増がある。2025年、移民・税関捜査局(アイス)による拘束は全米で約328,000件に達し、オレゴン州でも10月以降、月間拘束件数が従来比で5倍超に増加した。件数そのものよりも、「増加率」が心理に与える影響は大きい。

教職員組合や支援団体は「権利を知る」研修を実施し、校内立ち入り拒否の原則や家族安全計画を周知している。これに対し「恐怖を煽っている」との批判もあるが、恐怖の根源が執行の不透明さにあることは否定できない。同時に、永住権を持つ保護者にまで恐怖が及んでいる現状は、正確な情報が十分に共有されていないことの表れでもある。SNSで拡散される動画や体験談は、在留資格の違いという最も重要な前提を省略しがちだ。その結果、「誰でも送迎中に拘束される」という誤った一般化が生まれる。

噂は、事実そのものの欠如からではなく、事実の「切り取り方」から生まれる。学校送迎時の拘束という事態は、確かに現実に起きている。だが、その一点だけをもって「永住権保持者までもが危うい」と断じるのは、現状を正確に捉えているとは言い難い。

恐怖を払拭するために必要なのは、起きた事象を否定することではなく、その事象が成立する「条件」を精緻に語ることだ。線引きが曖昧なままでは、社会には不安だけが沈殿し続ける。大戦中に米国が約12万人の日本人を強制収容したという負の記憶が、不安を増幅させていることも否定できない。そして厄介なのは、この不安を政治的に利用しようとする潮流である。しかし、それを論じ始めれば水掛け論に陥り、議論は際限を失う。

さらに、正義と法の支配を掲げてきたアメリカが、カンババザデ氏拘束の映像を見る限り、いまやその基盤が揺らぎつつあると感じさせるほどの野蛮さを露呈した。この衝撃が、デマ拡散の燃料となったことは間違いない。

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