UC大生の算数能力2026年06月05日

カリフォルニア大学生の算数能力
名門カリフォルニア大学(UC)のSTEM(科学・技術・工学・数学)教員たちが、とうとう白旗ならぬ公開書簡を振り始めた。2027年からSATとACTの数学スコアを復活させてくれ、というのである。大学教授というのは普段、「研究費が足りない」とか「会議が長い」とか文句はいろいろあるが、入試制度についてここまで大勢で声を上げるのは珍しい。それだけ教室の中が大変なのだろう。

理由は単純である。新入生の数学力が、まるで坂道を転がる空き缶のように落ち続けている。UCサンディエゴでは高校レベル未満の学生がこの五年で三十倍に増え、その七割は中学数学も危ういという。バークレーでは微積分の授業なのに、学生が「先生、通分ってどうやるんでしたっけ」と尋ねる。教授は微分方程式を書こうとして黒板の前で立ち止まり、「今日はその前の前の前の話から始めるか」とチョークを持ち直す。大学というより、巨大な補習塾である。

原因の一つとされるのが、誤ったDEI指向の下で進められたSAT・ACT廃止だ。「テストは不公平だ」という考え方が広がり、数学力を測る客観的な物差しまで引き出しの奥へしまい込んでしまった。だが数学というものは、昨日の分数の上に今日の方程式が乗り、その上に微積分が乗る積み木のような学問である。土台がないまま上へ積めば、どこかでガラガラと崩れる。結果として大学は、州民の税金を使って中学数学を教えるという、なんとも不思議な施設になりつつある。微積分の教科書と中学の数学ドリルが同じ棚に並んでいる光景は、教育というより時空のねじれだ。

もっとも、この話を聞いて「アメリカも大変だなあ」と笑っている場合ではない。日本にもよく似た風景がある。少子化で学生が減り、Fランク大学は生き残りをかけて門を広げる。広げて、広げて、広げて、気がつけば入口がほぼ自動ドアになる。すると今度は大学で分数や百分率を教える話が出てくる。UCは誤ったDEI指向、日本は大学生き残りの経営圧力。理由は違うが、結果はどちらも「大学に入れさえすれば何とかなる」という古い呪文に振り回されている。

そもそも、社会に必要なのは大学生の数ではなく、能力を持った人材の数である。大学に向く人もいれば、職業教育で力を発揮する人もいる。それなのに、全員を大学へ押し込もうとするから、学生も大学も企業も息切れする。必要なのは学歴給ではなく、技能や資格が正当に評価される仕組みだろう。大学は高等教育の場に、職業教育は職業教育の場に戻る。その当たり前の線引きを思い出す時期に来ている。

UCの騒動は、単なる入試制度の話ではない。これは日米共通の「大学神話」がガタガタと音を立て始めた知らせである。「大学に行けばなんとかなる」という呪文は、長いあいだ便利に使われてきた。しかし最近どうも効き目が怪しい。そろそろその呪文は、使い古したお守りと一緒に棚へ戻しておいたほうがよさそうだ。

コメント

トラックバック