アドレセンス2025年05月04日

アドレセンス
Netflixの『アドレセンス(思春期)』は、3月に配信が始まったイギリス発のクライムドラマで、その評判を聞いて視聴した。物語は、13歳の少年ジェイミーが同級生ケイティ殺害の容疑で逮捕される場面から始まる。ごく普通の家庭に暮らしていた少年が突然警察に連行され、家族や周囲の人々に大きな衝撃を与える。ジェイミーは当初、容疑を否認するが、監視カメラの映像によって犯行が明るみに出る。事件の真相を巡って、刑事、心理士、家族など、それぞれの視点から物語が展開される。現代社会における少年犯罪、SNSの影響、思春期の葛藤、家庭の崩壊、ミソジニー(女性嫌悪)や有害な男らしさといったテーマが浮き彫りになる。ジェイミーは少年院で心理士のアリストンと対話を重ね、自らの内面と向き合い始める。全編ワンカットで撮影された演出は、登場人物の緊張感や動揺、事件の真相に迫る過程をリアルタイムで描き出し、その場に立ち会っているかのような没入感を生み出していた。主演のオーウェン・クーパーは、本作がデビュー作とは思えないほど、無垢さと狂気が交錯する難役を見事に演じていた。このシリーズは、どこにでもある家庭に起こりうる“最悪の悪夢”を描き、視聴者に深い問いを投げかける作品となっている。

イギリスのスターマー首相は、自身の子どもたちとともにこの作品を視聴したと述べ、「現代社会の課題を乗り越え、有害な影響から若者を守るには、オープンな対話が不可欠だ」と発言。英国議会でもこの作品が議題となり、中学校での教育活用が決定されたという。劇中、中学校の捜査シーンでは、情報提供を丁寧に求める刑事に対して、生徒たちが茶化したり激しく罵倒したりする様子が描かれる。これが実際の英国の中学校の現状だとすれば、非常に悩ましい。しかし、警察が子どもであっても誠実に対応し、証拠がそろっていてもなお動機を丁寧に捜査していく姿勢には好感が持てた。また、刑事がSNS上の若者の隠語(キャラクター)を息子に教えてもらうことで、ジェイミーが被害者や同級生からいじめを受けていたことに気づく展開も、現代的で印象的だった。

ミソジニーや誤ったジェンダー意識が思春期の男子に与える影響を描いた作品だという批評も多いが、それを一般化するのはやや飛躍があるように感じた。むしろ、行き過ぎた多様性・ジェンダー教育が子どもたちに与える影響のほうが、より深刻なのではないかとも考えさせられた。スターマー首相の発言の背景には、若者がインターネット上の有害な情報に惑わされることなく、健全な価値観を持てるようにという意図があるのだろう。『アドレセンス』は、子どもの価値観形成にとってどのような環境が必要かを改めて問いかける作品であった。

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