フェンタニル密輸2025年07月02日

フェンタニル密輸
名古屋港から米国へ発送された国際郵便が、世界規模の麻薬密輸ネットワークの“日本回廊化”を暴露した。荷物の中身は電子部品や化学試薬に見せかけたフェンタニル前駆体。送り主は中国系企業「Firsky株式会社」。そしてこの事件は、日本の法制度や監視体制の“空白”が、いかに巧妙に突かれたかを浮き彫りにした。フェンタニル——本来はがん性疼痛などに用いられる強力な鎮痛薬。その致死量はわずか2mg。闇市場では1錠あたり1〜10ドルという安さで流通し、その依存性はヘロイン以上。闇市場で流通しているフェンタニル錠剤の含有量は極めて不安定かつ危険であり、1錠あたり0.5mg〜5mg以上のフェンタニルが含まれているケースが確認されている。アメリカでは年間7万人以上がこれにより命を落とし、フェンタニルはもはや「社会毒」と化している。その影響は“ゾンビ”という言葉に象徴される。都市部では中毒者が意識を失い、背を曲げ、ふらつきながら歩く姿が日常風景となった。

そしてその“ゾンビ現象”は、静かに日本にも入り込んでいる。大阪・西成地区では2025年春以降、フェンタニル中毒者と思しき人物の「ゾンビ歩き」がSNS上で報告され、地元警察も警戒を強めている。薬物名は「ケタペン」。摂取後に全身の力が抜け、虚ろな目で街を徘徊する姿は、もはや他人事ではない。なぜ、この猛毒が“日本で”動き始めたのか。第一に、通関制度や法人設立の“善意設計”が逆手に取られた。日本は清潔で信頼される国だが、その“クリーンな中継地”としてのブランドが、かえって犯罪組織にとって理想的なルートを提供してしまった。第二に、政治的な危機意識の欠如。政府の対応は「発覚後」の強化策が中心であり、制度全体の再設計には踏み込めていない。

アメリカがこの問題を「新アヘン戦争」と呼ぶのは、決して過剰表現ではない。かつてアヘンによって主権を蹂躙された中国が、今度は化学物質によって他国を蝕んでいるとの批判は、陰謀論を超えて地政学的リアリズムの中にある。名古屋事件を警鐘と捉えるなら、今こそ必要なのは、“見えない感染”への想像力だ。中毒者が統計に現れるときには、すでに流通網が根付いている。ゾンビたちは、目に見える最終形にすぎない。今の日本に求められるのは、法と制度、そして市民の眼が「まだ見えていないもの」に気づくことではないだろうか。政府は「注視」している場合ではなく厳格な捜査をして水際で防がねばあっという間に広がる。
毒はもう、足元にある。

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