イーロン・マスクとトランプ2025年05月01日

イーロン・マスクとトランプ
米テスラ取締役会は、イーロン・マスクCEOの後任選定作業に着手した。背景には、マスク氏がトランプ政権下で政府効率化省(DOGE)を率い、米政府機関の人員削減や欧州右派政党との接近など政治的活動を展開し、これがテスラのブランドイメージを損ない、業績悪化を招いたことがある。実際、2025年1~3月期のテスラの最終利益は前年同期比で71%減少し、米欧で不買運動も広がった。取締役会は1カ月前から後任探しを進めており、マスク氏にはテスラ経営への専念を求めている。マスク氏は5月からDOGEへの関与を大幅に縮小し、テスラへの注力を表明したが、CEO続投の行方は依然として不透明である。マスク氏が主導したDOGEは、アメリカ連邦政府の官僚主義を解体し、行政の効率化と支出削減を目指した。DOGEはトランプ政権下に設置された外部助言組織であり、ホワイトハウスの承認のもと活動していた。行政手続きの簡素化や自動化を進め、とりわけ教育・医療分野で年間5,000億ドル規模の歳出削減を掲げた。DOGEの改革は、DEI(多様性・公平性・包括性)政策の見直し、職員の一時休職、大規模な解雇という三段階で構成され、「プロジェクト2025」と連動して組織再編を進めた。しかし、議会の承認を得ていないため強制力や持続性に疑問があり、権限の不透明さや実際の成果にも批判がある。大胆な改革姿勢は評価される一方で、その急進性には賛否が分かれている。

日本の米国報道の多くは民主党寄りであり、米国全体の意識動向を日本の報道だけで把握するのは困難だ。前回の大統領選でも、民主党優勢との報道が主流だったが、結果はトランプ氏の事実上の圧勝だった。こうした経験から今は日本の米国報道を鵜呑みにしないようにしている。DOGEのマスク氏の報道のほとんどは否定的に伝えられるがこれもどの程度正しいのかはわからない。そうしたこともあり、電気自動車(EV)で成功を収めたマスク氏が、なぜ脱炭素政策に否定的なトランプ氏と手を組んだのか、当初は理解しがたかった。テスラは脱炭素の象徴として欧米の左派や環境主義者に支持され、その時流に乗って売り上げを伸ばしてきたと言っても過言ではないからだ。

一方で、マスク氏は過剰なポリティカル・コレクトネスに反発し、表現の自由を重視する立場から、トランプ氏と政治信条を強く共有していた。だからと言って、反脱炭素主義で相互関税を掲げるトランプ政権と組めば、テスラ車の売上減につながることは容易に予想できたはずだ。GAFAのようにあとから勝ち馬トランプに乗るならまだしも、先陣を切って協力することはテスラ社にとってはデメリットの方が大きい。したがって、マスク氏はテスラの利益よりも、連邦政府の放漫経営を止め、グローバル化で空洞化した米国産業を再興しようとするMAGA政策の実現を選択したと見た方が自然だ。

アメリカの行政は連邦と州で権限が拮抗し、二重行政による非効率が常態化している。こうした構造にメスを入れるのは容易ではない。そこに企業経営者の論理を持ち込んで改革を断行できるのは、マスク氏ならではだろう。トランプ氏はDOGEの任期を約4カ月と定めており、その短期間で急速に改革を進める必要があった点も理解できる。大統領府を持たない日本では、例えばトヨタ会長が特命大臣になったとしても、財務省や各種利権団体からの強烈な反発を受け、政権自体が危機に陥るだろう。そう考えると、米国の大胆な改革の進め方は、破天荒でもありうらやましくも感じられる。

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