移民政策のない日本2025年09月04日

移民政策のない日本
アフリカの一部メディアで「日本がアフリカからの人びとに町を提供し、特別なビザを出す」といった記事が流れた。実際には国際協力機構(JICA)が行う人材交流の取り組みを誤解した報道であり、移住政策とは関係がない。しかし、この誤報が注目を集めたのは、日本の外国人の受け入れ方について、多くの国民が不安や疑問を抱いていたからだ。日本政府は長年「移民政策はとっていない」と説明してきた。確かに、外国人に永住を前提として受け入れる大規模な制度はない。しかし現実には、2024年末の時点で日本に住む外国人は約379万人にのぼり、国民全体の3%を占める。そのなかで技能実習や特定技能といった資格で働く人は80万人を超えている。さらに不法に滞在している人も7万人以上確認されている。国際的には「1年以上住む外国人」は移民と呼ぶのが一般的であるため、日本もすでに移民を受け入れている国といえる。

地方都市や工場の多い地域では、ブラジルやベトナムなど特定の国から来た人々が集まって暮らす地域ができつつある。学校や医療、住宅などをめぐって日本人住民との間に課題も出てきている。よく耳にする「外国人犯罪の増加」という声についてはデータ上の根拠はなく、外国人による犯罪件数は2000年代の初めをピークにむしろ減少している。治安より大きな問題は、不安定な仕事や賃金未払いといった雇用側の問題が、不法滞在や違法な働き方を助長する点である。

同じように人口減少や高齢化に直面する国として、ドイツや韓国の例は参考になる。ドイツは2000年代に「移民基本法」をつくり、外国人の権利と義務を決めたうえで、ドイツ語教育や社会統合の仕組みを国として整備した。韓国もかつては「移民は受け入れない」という立場だったが、人口減少をきっかけに政策を変え、結婚や仕事を理由に来る人々を法律で位置づけ、多文化家庭の支援に取り組んでいる。両国に共通するのは、実際に移民を受け入れる以上、それを隠すのではなく制度として明示し、社会との橋渡しを用意している点である。ただ、両国とも制度があっても移民は持ちこたえきれないとする事態に陥っているのも事実である。良い制度があれば自動的に移民との共生社会が安定するわけではないのだ。まして制度や明確な政策がない日本は言わずもがなである。

日本はこれまで、外国人を使いながら「移民ではない」と言い続けてきた。このあいまいさが国民の不安や不信感を広げ、誤報や憶測に振り回されやすい状況をつくっている。今必要なのは、外国人の受け入れ方針をはっきり示すこと、地域社会とつながる仕組みを整えること、公平な働き方を守ること、不法滞在を減らすためのルールを徹底することである。結局のところ、日本はすでに「移民を受け入れている国」である。問うべきは「受け入れるかどうか」ではなく「どう受け入れるか」である。きれいごとよりも、誠実でわかりやすい制度設計と、慎重で緩やかな変化こそが、国民の安心を生み、社会の安定につながる。共生社会を急かす妙なプロパガンダは国民を分断するだけだ。

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