備蓄米の買い戻しで米価高 ― 2026年02月17日
時事通信が「政府備蓄米の買い戻しが米価を押し上げる恐れ」と報じた。備蓄が適正水準を割り込み、農水省が対応に苦慮しているという構図だ。しかし、この報道は本質を外している。問題は買い戻しそのものではない。日本のコメ需給が、すでに構造的に逼迫している点にある。主食用米の需要は、直近の需給見通しで697万〜711万トン程度とされている。長期的には人口減少や食生活の変化を背景に減少傾向と説明されてきたが、足元では訪日客需要の増加などもあり下げ止まりの動きがみられ、従来想定より高い水準で推移している。一方生産は2022年が約679万トン、2023年は670万トン前後、2024年は猛暑の影響もあり680万トン前後となっている(いずれも主食用米、農林水産省統計ベース)。単純計算でも年間20万~30万トン規模の不足が続いてきたことになる。
この不足は在庫の取り崩しで吸収されてきた。その結果、市場の緩衝材は薄くなった。昨年、政府が約60万トンの備蓄米を放出したのは、まさにその延長線上の措置である。注目すべきは、これだけの数量が市場に出てもほとんど価格が崩れなかったことだ。需給に余裕があれば相場は軟化する。高止まりが続いたという事実は、累積不足が相当規模に達していたことを示している。その状況は輸入動向にも表れている。国内価格の上昇を受け、関税枠外での輸入米が急増している。高関税を支払っても採算が合う水準に達したからだ。枠外輸入が“爆発的に増加”しているという現象は、市場が国内不足を補おうとしている証左にほかならない。国内に余剰があれば、関税を払ってまで輸入する合理性はない。
2025年産は統計上増産となった。しかし夏の高温で等級低下が進み、歩留まりは悪化している。収穫量すべてが主食用として流通するわけではない。実効ベースでは700万トン前後にとどまる可能性が高く、711万トン需要を十分に満たす水準とは言い難い。在庫を積み増せる局面にはない。
さらに市場心理を左右しているのが政策シグナルの揺らぎだ。昨年の小泉農相は需給逼迫を踏まえ増産方針を掲げた。供給力を強化する方向性を明確に示したのである。しかし高市政権下の鈴木農相は増産に慎重姿勢を示し、方針は曖昧になった。コメは短期で生産が増える作物ではない。中期的な供給見通しが不透明になれば、「将来も不足が続く」との観測が価格に織り込まれるのは自然な流れだ。この状態で政府が備蓄米を買い戻せば価格が反応するのは当然である。だがそれは原因ではない。薄い市場に追加需要が入るから動くのだ。とはいえ放出分の買い戻しは制度上の義務であり、履行しなければ備蓄は痩せ、食料安全保障の土台が弱まる。価格が高止まりしたまま買い戻し、それがまた価格をつりあげる踏んだり蹴ったりの現象だ。
「買い戻しが価格を押し上げる」という単純な図式では、本質は見えない。需要は711万トン規模へと下げ止まり、生産は追いつかず、在庫は削られ、備蓄は放出され、輸入は急増し、政策は揺れた。こうした累積の結果として現在の価格が形成されているのであって、価格を動かしているのは備蓄ではない。需給構造そのものだ。報道メディアは、政府や識者の発言をそのまま流すのではなく、難しい計算ではないのだから、数量の整合を自ら確かめた上で真実を報じるべきである。
この不足は在庫の取り崩しで吸収されてきた。その結果、市場の緩衝材は薄くなった。昨年、政府が約60万トンの備蓄米を放出したのは、まさにその延長線上の措置である。注目すべきは、これだけの数量が市場に出てもほとんど価格が崩れなかったことだ。需給に余裕があれば相場は軟化する。高止まりが続いたという事実は、累積不足が相当規模に達していたことを示している。その状況は輸入動向にも表れている。国内価格の上昇を受け、関税枠外での輸入米が急増している。高関税を支払っても採算が合う水準に達したからだ。枠外輸入が“爆発的に増加”しているという現象は、市場が国内不足を補おうとしている証左にほかならない。国内に余剰があれば、関税を払ってまで輸入する合理性はない。
2025年産は統計上増産となった。しかし夏の高温で等級低下が進み、歩留まりは悪化している。収穫量すべてが主食用として流通するわけではない。実効ベースでは700万トン前後にとどまる可能性が高く、711万トン需要を十分に満たす水準とは言い難い。在庫を積み増せる局面にはない。
さらに市場心理を左右しているのが政策シグナルの揺らぎだ。昨年の小泉農相は需給逼迫を踏まえ増産方針を掲げた。供給力を強化する方向性を明確に示したのである。しかし高市政権下の鈴木農相は増産に慎重姿勢を示し、方針は曖昧になった。コメは短期で生産が増える作物ではない。中期的な供給見通しが不透明になれば、「将来も不足が続く」との観測が価格に織り込まれるのは自然な流れだ。この状態で政府が備蓄米を買い戻せば価格が反応するのは当然である。だがそれは原因ではない。薄い市場に追加需要が入るから動くのだ。とはいえ放出分の買い戻しは制度上の義務であり、履行しなければ備蓄は痩せ、食料安全保障の土台が弱まる。価格が高止まりしたまま買い戻し、それがまた価格をつりあげる踏んだり蹴ったりの現象だ。
「買い戻しが価格を押し上げる」という単純な図式では、本質は見えない。需要は711万トン規模へと下げ止まり、生産は追いつかず、在庫は削られ、備蓄は放出され、輸入は急増し、政策は揺れた。こうした累積の結果として現在の価格が形成されているのであって、価格を動かしているのは備蓄ではない。需給構造そのものだ。報道メディアは、政府や識者の発言をそのまま流すのではなく、難しい計算ではないのだから、数量の整合を自ら確かめた上で真実を報じるべきである。