火星往復H3ロケット ― 2026年10月20日
火星の衛星フォボスを目指す探査機MMXを載せ、H3ロケット10号機がいよいよ打ち上げられる。形態はLE-9エンジン2基にブースター4本を従えた大型の「H3-24L」、全長約63メートルという威容だ。目的地のフォボスで砂や岩石を採取し、地球へ持ち帰る。宇宙へ行くだけでも大ごとなのに、現地で買い出しをして無事に帰宅する。宇宙規模のお使いとしては、かなりの遠出であり大事業だ。
ロケットの話になると、世間はすぐスペースXを引き合いに出す。あちらは第1段を回収して再使用し、劇的なコスト削減を実現した。片や日本は使い捨てである。「これでは勝負にならない」という声も聞こえるが、ロケットの価値は使い回せる回数だけで決まるものではない。どれだけの荷物を遠くへ運べるか。宇宙の物流において、この輸送能力の高さも立派な看板商品なのだ。
その看板を支えるのが、H3の心臓部「LE-9」エンジンである。燃料は扱いの難しい極低温の液体水素だ。特徴は「エキスパンダーブリードサイクル」という日本独自の方式にある。燃焼室やノズルを冷やした水素を気化させ、そのガスでターボポンプを回す。これにより、構造の複雑なプリバーナーが不要になる。部品数を減らしてコストと信頼性の両立を目指す仕組みだ。これを第1段の大推力エンジンに採用した例は、日本以外にはない。極冷と酷熱が隣り合う過酷な世界で、構造を簡素にしながら大推力を狙う、なかなかの欲張り設計である。
もちろん万能ではない。LE-9は従来のLE-7Aより推力が約1.4倍大きい一方、燃料の効率(専門用語でいう比推力)の点では一歩譲る。つまり、最高の燃費だけを追い求めたエンジンではないのだ。大推力を確保しながら、構造を簡素化し、低コストと信頼性を目指す。そのための設計である。一方のスペースXは、ケロシン系燃料を使い、機体回収と組み合わせた運用体系を磨いてきた。同じロケットでも設計思想は違う。再使用性だけを物差しに日本の技術を採点していては、真価を見落としてしまう。
何より重要なのは、打ち上げ手段の「選択肢」を世界に残すことだ。大型衛星や深宇宙探査機を送り出す手段がスペースX一社に独占されたら、運賃やスケジュールの主導権が一社に集中し、衛星事業者の交渉力が弱まるおそれがある。別の手段を選べること自体が、顧客にとっての保険であり交渉のカードだ。もしも街の運送会社が一社だけになったら、配送料金を決めるのは誰か。考えるまでもない。
今回のMMX計画は、H3が探査機を火星圏へ送り出し、MMXが現地でサンプルを採取して地球へ持ち帰るという、日本の宇宙技術の総合力が問われるミッションだ。再使用ロケットだけが宇宙開発の正解ではない。独自の技術を磨き、必要な荷物を確実に届けるルートを守り続けること。スペースXが幹線道路を切り開いたからといって、そこを走るトラックまで一社に絞る必要はない。宇宙への道は、一本では困るのである。
ロケットの話になると、世間はすぐスペースXを引き合いに出す。あちらは第1段を回収して再使用し、劇的なコスト削減を実現した。片や日本は使い捨てである。「これでは勝負にならない」という声も聞こえるが、ロケットの価値は使い回せる回数だけで決まるものではない。どれだけの荷物を遠くへ運べるか。宇宙の物流において、この輸送能力の高さも立派な看板商品なのだ。
その看板を支えるのが、H3の心臓部「LE-9」エンジンである。燃料は扱いの難しい極低温の液体水素だ。特徴は「エキスパンダーブリードサイクル」という日本独自の方式にある。燃焼室やノズルを冷やした水素を気化させ、そのガスでターボポンプを回す。これにより、構造の複雑なプリバーナーが不要になる。部品数を減らしてコストと信頼性の両立を目指す仕組みだ。これを第1段の大推力エンジンに採用した例は、日本以外にはない。極冷と酷熱が隣り合う過酷な世界で、構造を簡素にしながら大推力を狙う、なかなかの欲張り設計である。
もちろん万能ではない。LE-9は従来のLE-7Aより推力が約1.4倍大きい一方、燃料の効率(専門用語でいう比推力)の点では一歩譲る。つまり、最高の燃費だけを追い求めたエンジンではないのだ。大推力を確保しながら、構造を簡素化し、低コストと信頼性を目指す。そのための設計である。一方のスペースXは、ケロシン系燃料を使い、機体回収と組み合わせた運用体系を磨いてきた。同じロケットでも設計思想は違う。再使用性だけを物差しに日本の技術を採点していては、真価を見落としてしまう。
何より重要なのは、打ち上げ手段の「選択肢」を世界に残すことだ。大型衛星や深宇宙探査機を送り出す手段がスペースX一社に独占されたら、運賃やスケジュールの主導権が一社に集中し、衛星事業者の交渉力が弱まるおそれがある。別の手段を選べること自体が、顧客にとっての保険であり交渉のカードだ。もしも街の運送会社が一社だけになったら、配送料金を決めるのは誰か。考えるまでもない。
今回のMMX計画は、H3が探査機を火星圏へ送り出し、MMXが現地でサンプルを採取して地球へ持ち帰るという、日本の宇宙技術の総合力が問われるミッションだ。再使用ロケットだけが宇宙開発の正解ではない。独自の技術を磨き、必要な荷物を確実に届けるルートを守り続けること。スペースXが幹線道路を切り開いたからといって、そこを走るトラックまで一社に絞る必要はない。宇宙への道は、一本では困るのである。