ロードキルと保険適用2025年11月26日

ロードキルと保険適用
全国で野生動物と車両が衝突する“ロードキル”が止まらない。警察庁の統計では、30年前に約2万件だった事故件数は令和4年に約5万件へと跳ね上がった。タヌキや鳥類といった中型動物が主流だった時代はすでに過去。近年は東北地方でクマとの衝突が急増し、秋田県では前年の5倍超という異常事態だ。観光地・奈良公園でも「奈良のシカ」との事故が令和6年7月からの1年間で72件、36頭が命を落とした。事故後に動物が姿を消すケースも多く、実数は統計の倍以上あるとの見方もある。

なぜ事故がここまで増えているのか。森林で鳥獣が増加する一方で餌資源が枯渇し、高速道路や幹線道路が動物の移動ルートを分断したことに加え、環境変化によって行動圏が広がった結果、車と動物が遭遇する確率は必然的に高まっている。しかしより深刻なのは、こうした事故が保険制度の“死角”に置かれている点だ。野生動物との衝突は「物損事故」と扱われ、自賠責保険からは一円も支払われない。任意保険も契約内容によっては補償対象外となる。ドライバーに過失がない事故であるにもかかわらず、修理費を泣き寝入りせざるを得ないケースが後を絶たない。日本損害保険協会も「制度が現実に追いついていない」と認めている。

ここに制度設計の大矛盾が潜んでいる。本来、ドライバーは不可抗力的な被害者のはずだが、現行制度では“自損事故扱い”で自己負担が原則。一方、道路管理者は「道路を安全に管理する義務」を負っているはずなのに、動物事故では責任を回避しやすい。国家賠償法2条は“営造物の設置・管理に瑕疵があれば賠償責任を負う”と明記しており、落石や路面破損では判例上、責任が認められてきた。防護柵が不十分だったり、警告標識が欠けていたりすれば、動物飛び出し事故でも「瑕疵あり」と判断されうるはずなのだ。にもかかわらず、実際には“責任の空白”が放置され、ドライバーが一方的に割を食っている。

ではどうするか。解決策は二つに絞られる。
ひとつは保険制度の見直しだ。ロードキルを「不可抗力事故」として自賠責や任意保険の補償対象に明確に位置づけること。事故件数は少しずつ減少しており、保険財政にとっても十分に吸収可能な規模だ。契約者の納得感も高まるだろう。

もうひとつは道路管理者責任の拡張である。事故車両の修理費まで管理者が負担する仕組みにすれば、管理者側に強烈なインセンティブが生まれ、欧州で普及するエコブリッジや防護柵、警告標識の整備が一気に進むはずだ。欧米では「保険+管理者責任」で事故抑制を図るのがすでにスタンダードで、日本の制度は明らかに周回遅れのままで取り残されている。

結論は明快だ。ロードキルを自損扱いしたままにするなら、保険適用を広げるか、道路管理者責任を強化するか、そのいずれかを選ぶべきである。現行の“どっちつかず”では、ドライバーだけが不公平な負担を背負い続ける。事故が減少傾向に転じたいまこそ、制度改革には絶好のタイミングである。環境政策とも連動させつつ、「不可抗力事故」の救済と制度公平性を両立する――。その第一歩を踏み出す決断が、国にも保険業界にも求められている。

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