利上げ前線北上中?2026年05月25日

利上げ前線北上中?
日銀がまた利上げをするのではないか、と最近よく言われる。テレビをつければ「利上げ前線北上中」、ネットを見れば「市場は追加利上げを織り込みへ」。なんだか台風情報みたいである。長期金利が2.8%に上がった、などというニュースが流れると、スタジオの空気は急に深刻になる。「インフレ再燃ですね」「日銀も動かざるを得ませんね」と、みんなで顔を曇らせる。しかし、こういうときほど、少し落ち着いて数字を見た方がいい。東京都区部のコアコアCPIは1.9%。もちろんゼロではない。物価は上がっている。しかし、「日本経済が熱々で大暴走」というほどの感じでもない。需給ギャップはほぼ中立で、賃金上昇も加熱と言えるほどではない。

しかも、去年12月には0.25%の利上げが実施されている。金利というのは、注射みたいに打った瞬間に効くものではない。あとからじわじわ効いてくる。最近インフレ率が少し落ち着いてきたのも、その影響が出始めているのだろう。実質賃金はまだ弱く、個人消費も力強いとは言い難い。設備投資だって、金利上昇に敏感になり始めている。つまり、「超低金利が続きすぎているから急いで正常化しなければならない」というほどの状況ではない。むしろ、薬が効き始めた患者に向かって、「念のため、もう一錠どうですか」と勧めているようなところがある。

しかも今回の長期金利上昇には、海外要因がかなり混じっている。アメリカの金利が上がれば、日本もつられて上がる。原油価格も、中東情勢や戦争で簡単に動く。こういうものは、日銀が短期金利を少しいじったところで、「はい止まりました」とはならない。台風が来ているときに、扇風機を強にして対抗するようなものだ。それなのに、「長期金利上昇=利上げ不可避」という話だけがどんどん大きくなる。最近の経済報道は、数字を見ているのか、空気を見ているのか、だんだん分からなくなってくる。なんだか“市場の実況中継”ばかりが盛り上がって、本来の経済分析が後ろへ下がっている感じがする。

もちろん、利上げを歓迎する人たちがいるのは理解できる。低金利が長く続けば、銀行の利ざやは細る。しかし、銀行収益の改善と、日本経済全体に追加利上げが必要かどうかは別問題である。利上げをすれば、住宅ローンは重くなる。企業の借入負担も増える。設備投資も鈍るかもしれない。特に日本は、まだ「景気が強すぎて困る」という国ではない。需要の勢いは限定的で、賃金上昇もようやく始まったばかりだ。そこで追加利上げを急げば、せっかく動き始めた景気の芽を冷やしてしまう可能性もある。「少し熱っぽいですね」と言いながら、冷房を18度設定にするような危うさがあるのである。

本来、金融政策というのは、もっと地味なもののはずだ。コアコアCPIが1.9%なら、その中身を見る。長期金利が上がったなら、それが国内要因なのか海外要因なのかを分けて考える。需給ギャップや実質賃金、消費動向を静かに確認する。そういう、目立たない作業の積み重ねで決めるべき話である。ところが最近は、「利上げするのか、しないのか」という実況中継ばかりが盛り上がる。だが、金融政策は空気で決めるものではない。必要なのは、「正常化」という言葉に酔うことでも、「インフレ再燃」と大声を出すことでもなく、本当に国内需要主導のインフレが定着しているのかを、数字ベースで静かに見極めることだろう。

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