ひらやすみ2025年11月28日

ひらやすみ
NHKの夜ドラ『団地のふたり』や『しあわせは食べて寝て待て』など、いわゆる“団地ドラマ”は、観る者にほっこりとした癒しを届けてきた。大きな事件は起こらず、せいぜい知り合い同士の勘違いから生まれる小さないざこざが、ドラマの終わりまで延々と続く――その圧倒的な平和感こそが魅力だ。団地に暮らした経験のある人なら「そうなんだよな」と共感を覚え、納得させられるテーマが随所に散りばめられている。根底に流れるのは「みんな仲良く」という姿勢である。

今回の舞台は、団地からワンランク上の“ひらやすみ”、すなわち平屋暮らしだ。実家のようにほっこり温かい場所でありながら、家族に縛られず、友人や隣人たちとの穏やかな共生を描く物語である。そして何より重要なのは「二階建てではない平屋」である点だ。昭和世代にとって、庭付き平屋建ての記憶は少なくない。団地やアパートから郊外のささやかな一軒家へ――その多くは平屋で、玄関から廊下が続き、客間・居間・台所で完結する。居間の縁側には物干しのテラスと小さな庭があり、家族の声がどこにいても聞こえる。プライベートという言葉が入り込む余地のない濃密な関係性の中で、喜びも悲しみも共有される。平屋には絆と思い出が凝縮されているのだ。

その昭和の平屋が令和のドラマに登場すると、今度は「ゆったりと時間が流れる舞台」として描かれる。原作は真造圭伍の漫画『ひらやすみ』。阿佐ヶ谷の平屋一戸建てに暮らす主人公といとこ、そして周囲の人々の姿を優しく描き出す。温かく、ほっとする、それでいてどこか切なさを含んだ世界観は、読者の心に残り、幅広い世代から愛されている。2023年には「手塚治虫文化賞」マンガ大賞にノミネート、さらに2024年にはイタリアの欧州最大ポップカルチャー祭典「ルッカコミックス&ゲームズ」で最優秀連載コミック賞を受賞するなど、国内外で高く評価された作品だ。

ドラマ版は米内山陽子の脚本で、まったりと進んでいく。主人公・生田ヒロト(岡山天音)は29歳のフリーター。釣り堀のバイトで生計を立て、恋人もなく、将来への不安も抱かないお気楽な自由人だ。そんな彼は、人柄の良さだけで近所のおばあちゃん・和田はなえから平屋を譲り受ける。そして山形から上京してきた18歳のいとこ・小林なつみ(森七菜)と二人暮らしを始める。彼の周囲には、生きづらさや悩みを抱えた人々が自然と集まり、なぜか和んでしまう。

特筆すべきは、森七菜の“ふにゃふにゃ感”と岡山天音の“のほほん感”の絶妙なキャスティングだ。マンガ家を目指すなつみは、ギラギラした野心はなく、ただ好きで描いている程度。確固たる理想もない。俳優をやめたヒロトも、挫折感を引きずることなく「今日なつみと何を食べるか」が最大の悩み。ふにゃふにゃとのほほんが平屋の下で共鳴し合い、独特の平和感を醸し出す。寝る前に観るヒーリングドラマとして、これ以上の作品はないだろう。

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