赤ちゃんポスト ― 2025年04月06日

東京・賛育会病院が、「赤ちゃんポスト」と「内密出産」の受け入れを始めると発表した。これは都内初の試みになる。赤ちゃんポストは、生まれたばかりの赤ちゃん(生後4週間以内)を、名前も名乗らずに預けられる仕組み。内密出産は、出産する女性が身元を完全には明かさず、一部の医療スタッフだけに知らせて出産できる制度だ。どちらも、予期せぬ妊娠や孤立出産、そして最悪のケースである嬰児遺棄を防ぐことを目的としている。病院は東京都や墨田区と連携して運営にあたる。この分野で先行してきたのが、熊本市の慈恵病院だ。同院の蓮田健理事長は、今回の賛育会病院の方針に対し、「内密出産の費用を本人に請求するのは残念だ」と率直に批判。理念を大切にすべきだとして、慈恵病院では経済的に厳しい人の出産費用は病院側が負担しているという。ただし、この「理想の姿」にも異論はある。赤ちゃんポストにしても内密出産にしても、母親の身元が不明だったり、経済状況がつかめなかったりするケースが多い。当然、医療費の負担は病院が背負うことになる。それだけでも大変だが、もっと難しいのは「健保未加入」や「生活保護が受けられない」などの在留資格を持たない違法滞在者による出産についてだ。こうなると「医療費は病院持ちで当然」と言い切ることには、社会的にも疑問の声が出てくるのは自然なことだ。ここでは、未成年の予期せぬ妊娠といった別の問題は脇に置いておきたい。
健保料が未払いの人や、生活に困っている人たちには救済策がある。申請すれば健保組合や自治体の補助が出ることもあり、出産費用がゼロになるケースもある。これは病院側が丸損しないための制度でもある。でも、その仕組みにも当てはまらない違法滞在者の出産まで、「赤ちゃんに罪はないから」と無償対応を求めるのは、果たして“正義”なのかどうか。出産する女性を守るべきだという思いに異論はないが、「人権」や「平等」といった言葉が独り歩きして、制度が無限に広がっていけば、今度は「ただ乗り」を許す仕組みになってしまう。その結果、制度を支えている多くの国民の気持ちが離れていくかもしれない。たしかに、こうしたケースにかかる医療費は、全体から見ればごくわずかかもしれない。それでも、「なんだか納得できない」と感じる人が多いのも現実だ。そもそも、この問題の根っこには、入国管理や外国人政策の不備があり、病院や自治体に全部対応を押しつけるのは違う。国がルールを整え、現場を支える仕組みをつくる必要がある。政府も今、法整備に向けて動き始め、海外の事例も調べているという。「困っている人を助けたい」――その気持ちは間違っていない。でも制度がきちんと回ってこそ、本当の意味で“優しさのある社会”は実現できるのではないか。いま必要なのは、感情だけに流されず、理念と現実のバランスをとった冷静な議論だ。
健保料が未払いの人や、生活に困っている人たちには救済策がある。申請すれば健保組合や自治体の補助が出ることもあり、出産費用がゼロになるケースもある。これは病院側が丸損しないための制度でもある。でも、その仕組みにも当てはまらない違法滞在者の出産まで、「赤ちゃんに罪はないから」と無償対応を求めるのは、果たして“正義”なのかどうか。出産する女性を守るべきだという思いに異論はないが、「人権」や「平等」といった言葉が独り歩きして、制度が無限に広がっていけば、今度は「ただ乗り」を許す仕組みになってしまう。その結果、制度を支えている多くの国民の気持ちが離れていくかもしれない。たしかに、こうしたケースにかかる医療費は、全体から見ればごくわずかかもしれない。それでも、「なんだか納得できない」と感じる人が多いのも現実だ。そもそも、この問題の根っこには、入国管理や外国人政策の不備があり、病院や自治体に全部対応を押しつけるのは違う。国がルールを整え、現場を支える仕組みをつくる必要がある。政府も今、法整備に向けて動き始め、海外の事例も調べているという。「困っている人を助けたい」――その気持ちは間違っていない。でも制度がきちんと回ってこそ、本当の意味で“優しさのある社会”は実現できるのではないか。いま必要なのは、感情だけに流されず、理念と現実のバランスをとった冷静な議論だ。
DV聴取は脳ダメージが大 ― 2025年03月02日

友田明美氏の講演会に参加した。友田氏はマルトリートメント(不適切な子育て)とその予防に取り組む医師で、熊本大学発達小児科から米マサチューセッツ州の病院を経て、ハーバード大学医学部精神科学教室の客員助教授を歴任。現在は福井大学医学部教授を務めている。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」や「クローズアップ現代+」などのメディアにも多数取り上げられており、その業績は広く知られている。彼女の研究の特筆すべき点は、小児の脳画像技術を用いて虐待を受けた子どもの脳の変容を可視化し、そのエビデンスを日本に広めたことである。医学では因果関係の解明は当然の手法かもしれないが、原因と結果を明示することが、虐待の深刻さを社会に説得力をもって伝える大きな役割を果たしている。講演会場には約350人の保護者や関係者が詰めかけ、関心の高さがうかがえた。言葉による虐待(暴言虐待)は脳に深刻な影響を与える。暴言を受けた子どもの聴覚野の一部は平均14.1%増加し、暴言の程度が強いほど影響が大きくなる。また、言語理解に関わる弓状束の異常も発見された。これは暴言によって過剰なシナプス形成が進み、神経伝達の効率が低下する可能性を示している。一方で、過度の体罰も脳にダメージを与える。厳格な体罰を受けた人は右前頭前野内側部が19.1%、右前帯状回が16.9%、左前頭前野背外側部が14.5%減少し、これらの損傷はうつ病や素行障害のリスクを高めることが報告されている。
特に注目すべきは、夫婦間の不和による子どもの脳へのダメージだ。児童虐待防止法では、夫婦間のDV目撃は心理的虐待の一種と定義されている。DVを目撃した子どもは知能や語彙理解力に影響を受けやすく、11〜13歳の時期に悪影響が強まる。DVを平均4.1年間目撃した子どもは視覚野(舌状回)の容積が平均3.2%減少し、さらに言葉によるDVを聴取した場合は19.8%も減少していた。複数の虐待タイプが重なると影響は深刻化し、DV目撃と暴言聴取の組み合わせが最も重篤なトラウマ症状を引き起こすことが示されている。親の暴言やDV目撃は、身体的虐待以上に精神的ダメージを与える可能性があることから、非身体的虐待の深刻さをより重視すべきという話が印象的だった。もちろん脳は可塑性の高い臓器であり、治療は可能だが、幼少期のダメージは大きく、回復にも長い時間が必要である。自身を振り返れば、直接的な虐待も間接的な虐待も何度もやらかしてきたことに胸が痛くなる。特に暴言にさらされた経験は自分の幼少期の記憶にも強く残っている。科学の力で虐待の連鎖を断ち切る時代になったことに、勇気をもらった。
特に注目すべきは、夫婦間の不和による子どもの脳へのダメージだ。児童虐待防止法では、夫婦間のDV目撃は心理的虐待の一種と定義されている。DVを目撃した子どもは知能や語彙理解力に影響を受けやすく、11〜13歳の時期に悪影響が強まる。DVを平均4.1年間目撃した子どもは視覚野(舌状回)の容積が平均3.2%減少し、さらに言葉によるDVを聴取した場合は19.8%も減少していた。複数の虐待タイプが重なると影響は深刻化し、DV目撃と暴言聴取の組み合わせが最も重篤なトラウマ症状を引き起こすことが示されている。親の暴言やDV目撃は、身体的虐待以上に精神的ダメージを与える可能性があることから、非身体的虐待の深刻さをより重視すべきという話が印象的だった。もちろん脳は可塑性の高い臓器であり、治療は可能だが、幼少期のダメージは大きく、回復にも長い時間が必要である。自身を振り返れば、直接的な虐待も間接的な虐待も何度もやらかしてきたことに胸が痛くなる。特に暴言にさらされた経験は自分の幼少期の記憶にも強く残っている。科学の力で虐待の連鎖を断ち切る時代になったことに、勇気をもらった。
高額療養費負担上限引き上げ ― 2025年02月17日

石破首相は17日の衆院予算委員会において、政府が高額療養費制度の患者負担上限引き上げに関する方針を修正し、長期治療の患者の自己負担額を据え置く決断をしたと説明した。これは治療中のがん患者からの意見を踏まえたものであり、石破首相は「長期間治療が続き、経済的不安を感じている方々の負担額は変わらない」と述べた。立憲民主党からの凍結要求について、石破首相は「高額療養費制度の見直しをすべて凍結すると、後期高齢者で年額平均1000円、現役世代では年額3000円から4200円の保険料負担増になる」と指摘し、保険料負担増加への不安の声を払拭することが重要だと強調した。高額療養費は、今年8月に自己負担上限額の見直しが第一段階として行われ、2026年8月には所得区分を細分化しての自己負担上限額の引上げを、2027年8月にも引上げを行うという三段階で値上げする。今回の見直しは、いわゆる社会保険料負担の世代間格差の緩和と所得区分の見直しからもわかるように同世代間での格差の緩和という目的があるという。表を見ていると金持ちの上限額を上げると言いながら、しれっと貧乏人の上限額も上げている。今回は難病の値上げを止めるということだが、野党は全ての上限額の引き上げ案に反対している。
政府は値上げしたり、上限額を上げる事ばかりに執着するが、その使い方についての抜本的な改革は与野党含めて支持者の意向を恐れてか提案しない。医療費が増大しているという一般論ではなく特に何が膨れ上がっているのかという議論が必要だ。日本の公的医療保険では、全体の医療費約44兆円のうち、75歳以上の後期高齢者が約18兆円(約40%)を占める。65歳以上まで含めると、医療費全体の約60%が高齢者向けである。延命治療にかかる費用の正確なデータはないが、終末期医療費は年間4〜6兆円規模と推定され、医療費全体の約10〜15%、高齢者医療費の約15〜25%を占める可能性がある。高額療養費制度の存在により患者負担が軽減され、結果的に延命治療が長期化する傾向が指摘されている。特に日本では、家族の希望や医療機関の方針により延命治療が続くケースが多い。これが過剰医療の要因となり、医療費増大につながっている。欧米では寝たきり老人が少ないというのは、延命治療を保険では認めていないこともある。先進福祉国も含め本人の意思もないのに胃ろうや栄養剤輸液補給で延命することは個人の尊厳に反するという考えが多く、食事が自分でとれなくなった段階で治療を終了することが少なくない。日本では、年齢に関わりなくどの命も救うべきという考えが強く延命治療が本人の意思に関係なく続けられる。延命治療の停止を「個人の意思の尊厳」を条件とするならば理解を得られることも多いのではないか。患者の意思を尊重しつつ持続可能な医療制度を構築することが求められる。
政府は値上げしたり、上限額を上げる事ばかりに執着するが、その使い方についての抜本的な改革は与野党含めて支持者の意向を恐れてか提案しない。医療費が増大しているという一般論ではなく特に何が膨れ上がっているのかという議論が必要だ。日本の公的医療保険では、全体の医療費約44兆円のうち、75歳以上の後期高齢者が約18兆円(約40%)を占める。65歳以上まで含めると、医療費全体の約60%が高齢者向けである。延命治療にかかる費用の正確なデータはないが、終末期医療費は年間4〜6兆円規模と推定され、医療費全体の約10〜15%、高齢者医療費の約15〜25%を占める可能性がある。高額療養費制度の存在により患者負担が軽減され、結果的に延命治療が長期化する傾向が指摘されている。特に日本では、家族の希望や医療機関の方針により延命治療が続くケースが多い。これが過剰医療の要因となり、医療費増大につながっている。欧米では寝たきり老人が少ないというのは、延命治療を保険では認めていないこともある。先進福祉国も含め本人の意思もないのに胃ろうや栄養剤輸液補給で延命することは個人の尊厳に反するという考えが多く、食事が自分でとれなくなった段階で治療を終了することが少なくない。日本では、年齢に関わりなくどの命も救うべきという考えが強く延命治療が本人の意思に関係なく続けられる。延命治療の停止を「個人の意思の尊厳」を条件とするならば理解を得られることも多いのではないか。患者の意思を尊重しつつ持続可能な医療制度を構築することが求められる。
マイナ保険証の病院利用率 ― 2025年01月29日

立憲民主党は、昨年に廃止された従来型の健康保険証の発行を復活させる法案を衆議院に提出した。これは、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」の利用率が25%と低迷しており、国民の不安を解消することを目的としている。これに対し、平将明デジタル大臣は「大きな方針転換は不要」と述べ、現行制度の継続を強調した。立憲民主党の法案は、健康保険証の発行再開と安全な利用環境の整備を求め、廃止時期の再検討を提案している。同党の議員は、医療情報のデジタル化そのものには否定的でないとしつつも、世論調査で示される国民の不安を指摘。特に高齢者や障害者、介護施設入所者への対策が整うまで、従来型の健康保険証との併用を求めた。マイナ保険証は、2年前に河野太郎デジタル大臣(当時)が突然発表し、申請の急増とミスの多発を招いた経緯がある。平氏は「政府広報も不安解消に努めている」とし、進捗は順調だと強調した。しかし、「マイナ保険証の利用率」に関する報道には注意が必要である。マイナ保険証の利用率の母数は「オンライン資格確認利用件数」で、従来の保険証やマイナ保険証の利用件数が含まれる。つまり病院での利用率を示す。
だが、「利用率が25%と低迷」という表現は、国民の25%しかマイナ保険証を登録していないという誤解を生む可能性がある。実際の登録者数は8千万人弱で、国民の約63.5%に相当する。つまり、国民の6割がマイナ保険証を登録しているなら、今後の病院利用割合はその割合に近づいていくと考えるのが妥当だ。ただ、マイナ保険証を登録したからと言って病気でもないのに病院に行く人はいないのでタイムラグが生じるのは当たり前だ。立憲民主党の議員が国民登録率を提示しなかった理由は定かでないが、登録率に触れなかったのは意図的な印象を与える。12月段階で「25%利用率」だから国民に不安が広がっているというのはこじつけだしメディアの見出しもミスリードだ。特殊な事情を一般論にすり替えるのは反対派の常套手段だが、根拠となる数値は適切に提示すべきである。また、メディアも厚労省も政党発表を鵜呑みにせず正確な報道やコメントをしてほしい。
だが、「利用率が25%と低迷」という表現は、国民の25%しかマイナ保険証を登録していないという誤解を生む可能性がある。実際の登録者数は8千万人弱で、国民の約63.5%に相当する。つまり、国民の6割がマイナ保険証を登録しているなら、今後の病院利用割合はその割合に近づいていくと考えるのが妥当だ。ただ、マイナ保険証を登録したからと言って病気でもないのに病院に行く人はいないのでタイムラグが生じるのは当たり前だ。立憲民主党の議員が国民登録率を提示しなかった理由は定かでないが、登録率に触れなかったのは意図的な印象を与える。12月段階で「25%利用率」だから国民に不安が広がっているというのはこじつけだしメディアの見出しもミスリードだ。特殊な事情を一般論にすり替えるのは反対派の常套手段だが、根拠となる数値は適切に提示すべきである。また、メディアも厚労省も政党発表を鵜呑みにせず正確な報道やコメントをしてほしい。
監察医 朝顔 新春スペシャル ― 2025年01月06日

正月に放送された上野樹里主演の「監察医 朝顔2025新春スペシャル」は、感動的なラストシーンがSNS上で話題となっている。「暖かい終わり方」や「このドラマらしいラスト」などの感想が多く寄せられている。本ドラマは同名コミックを原作とし、法医学者の主人公が解剖を通じて遺体から見つけ出される“生きた証”が生きている人々の心を救う様子や、主人公の家族の物語を丁寧に描いている。今回の放送は2022年秋以来となる。主役・上野樹里が演じる朝顔の娘、つぐみ役の永瀬ゆずなの演技が秀逸で、初回からつぐみ推しで見続けている。また、テーマソング「朝顔」を歌う折坂悠太のけだるい歌い方も大好きだ。今回の物語は、朝顔の父親が認知症を患い施設に入り、家族4人の生活から始まる。警察官である夫と法医学者の朝顔が追う連続殺人事件から、35年前に起きた小学生女児誘拐事件が浮かび上がる。連続殺人事件の犯人は、小学生女児の父親であり、その動機は娘を誘拐した犯人への復讐だったと判明する。しかし、犯人たちは殺した娘をどこに埋めたのかを忘れてしまっている。さらに、犯人の父親自身も認知症が進行し始め、娘を奪われたことすら忘れてしまう恐怖が、彼を犯行に駆り立てたのだという。朝顔は、誘拐された日の朝、娘のお弁当に大好物のビワの実が入っていたことを父親から聞き出し、その手がかりを元に警視庁は町中のビワの木を捜索。ついに娘の遺体を見つけ出し、娘の亡骸を朝顔が父親に返す場面が描かれる。
このシーンでは涙が止まらなかった。多くの人は、大震災の被災地の駅で一人ぼっちの朝顔が父親との別れを呟くラストシーンに感動すると言うが、私にとって最も泣けたのは、亡骸に抱きすがる父親のシーンだった。このドラマのテーマは「家族の思い出」と「不幸な離別」であり、その根底にあるのは「認知症」だ。今回の犯人も、自らの認知症に対する恐怖が犯行の動機だった。そして朝顔の父もまた、家族を忘れてしまう恐ろしさから、治療を望まず死を選び、その意図を朝顔には知らせなかった。相手が自分との思い出を覚えているのに、自分はその相手を含め何一つ覚えていない――その恐怖は想像を絶する。愛する家族を忘れることは、死ぬこと以上に恐ろしいと感じる。大きなテーマを深く描いた素晴らしいドラマだった。
このシーンでは涙が止まらなかった。多くの人は、大震災の被災地の駅で一人ぼっちの朝顔が父親との別れを呟くラストシーンに感動すると言うが、私にとって最も泣けたのは、亡骸に抱きすがる父親のシーンだった。このドラマのテーマは「家族の思い出」と「不幸な離別」であり、その根底にあるのは「認知症」だ。今回の犯人も、自らの認知症に対する恐怖が犯行の動機だった。そして朝顔の父もまた、家族を忘れてしまう恐ろしさから、治療を望まず死を選び、その意図を朝顔には知らせなかった。相手が自分との思い出を覚えているのに、自分はその相手を含め何一つ覚えていない――その恐怖は想像を絶する。愛する家族を忘れることは、死ぬこと以上に恐ろしいと感じる。大きなテーマを深く描いた素晴らしいドラマだった。
「マイナ保険証」違法裁判棄却 ― 2024年11月29日

医療機関に「マイナ保険証」を活用したオンラインシステム導入を義務化する厚生労働省令の適法性を巡り、医師1415人が提起した訴訟で、東京地裁は28日、医師側の訴えを棄却した。裁判では、省令が健康保険法の趣旨を超えているかが争点となったが、岡田幸人裁判長は、省令が法律の範囲内で適法と判断。患者の薬歴情報共有を通じた医療の質向上など、義務化の目的が健康保険法の趣旨に合致するとした。システム導入による経済的負担についても、医療機関の事業継続が困難とは言えないと結論付けた。一方、原告側は現場負担が無視されたと批判し、控訴を表明。政府は12月2日に現行保険証の新規発行を終了し、マイナ保険証の普及を進める方針である。町医者の年間所得は診療科目や地域によって違うが平均2000万越えと言われているのでこの訴訟には違和感があった。マイナカードのオンラインシステムを導入するには数十万で事足りる、政府の補助があれば10万もかからないからだ。
多くの診療所に設置されているデジタル式レントゲン装置価格は平均2000万円だ。歯科医のデジタル式レントゲン装置はパノラマ型で1000万円弱かかる。それらの経費にすれば、マイナカードのオンラインシステムなど比べるほどの価格でもない。開業医が全て金持ちだとは言わないが、同地域の事業者の平均的な収入に比べれば多い。しかも、民間事業者が顧客の利便性を図る投資としてクレジットカードの読み取り機を設置するのとは意味が違い、マイナカードのオンラインシステムは患者の保険加入確認のための仕組みだ。保険医療は医療費の7~9割が公費で得られる。紙の保険証では偽造が後を絶たず毎年1000億円近くが公費から奪われている。それを防ごうとする保健医療制度の一環となるデジタル読み取り機の設置を違法だと考える方が頭がおかしい。そんな医師が今回の訴訟で1000人以上いるというだけでも驚きだ。
多くの診療所に設置されているデジタル式レントゲン装置価格は平均2000万円だ。歯科医のデジタル式レントゲン装置はパノラマ型で1000万円弱かかる。それらの経費にすれば、マイナカードのオンラインシステムなど比べるほどの価格でもない。開業医が全て金持ちだとは言わないが、同地域の事業者の平均的な収入に比べれば多い。しかも、民間事業者が顧客の利便性を図る投資としてクレジットカードの読み取り機を設置するのとは意味が違い、マイナカードのオンラインシステムは患者の保険加入確認のための仕組みだ。保険医療は医療費の7~9割が公費で得られる。紙の保険証では偽造が後を絶たず毎年1000億円近くが公費から奪われている。それを防ごうとする保健医療制度の一環となるデジタル読み取り機の設置を違法だと考える方が頭がおかしい。そんな医師が今回の訴訟で1000人以上いるというだけでも驚きだ。
医療連携 ― 2024年09月30日

特定検診の季節が来た。今年は2年に一度の胃カメラも受診できるらしいので経過観察先の病院で医師に申し出ると当院でその制度を使えば良いとのことだった。役場に特定検診と胃カメラ検診を連絡すると、役場のLINEに登録していると胃カメラ受診票も便利に発行できるという。便利だが郵送に1週間かかるという。役場に直接行けば即日発行するものをわざわざLINEで申し込む理由がない。今度は胃カメラの予約をしようと病院に連絡すると、今年から検診補助の胃カメラは内視鏡医が辞めたので実施できないという。主治医に了解された話をすると、勤務医は病院の事情を良く把握していないからだという。経過観察が必要なら同じ病院で胃カメラ検診は受ける必要があるから、保険費負担で受診してほしいと言われた。せっかく医療費負担が6000円から2000円になって得をしたと思ったのに残念だ。医療は医師と事務方、役場が絡むとその三者が情報共有して連携する必要がある。この連携が悪いと患者側が三者に話をする必要がある。
せっかく医療情報がマイナンバーで共有できるのだから、行政補助のある制度と医療側の受け入れなどは瞬時でマッチングできる出来るはずだ。せめて患者側で操作して分かるようにしてくれないものか。ただLINEで役場に申し込めというくらいの認識だから、いかにマイナンバーの利用について末端行政は考えていないかが分かる。胃カメラの保険診療は医師の指示が必要となるので、主治医の非番の日でもいいから別の医師を受診してくれと言われた。事務方と医師の権限の違いだから仕方がないことだが、普通なら構成員同士で齟齬のあった組織側で対処すべきだろうと思うが水掛論になるのであきらめた。制度上のことは医師の診察を受ける前に病院の事務方に良く情報を確認しておくべきというのが教訓だ。
せっかく医療情報がマイナンバーで共有できるのだから、行政補助のある制度と医療側の受け入れなどは瞬時でマッチングできる出来るはずだ。せめて患者側で操作して分かるようにしてくれないものか。ただLINEで役場に申し込めというくらいの認識だから、いかにマイナンバーの利用について末端行政は考えていないかが分かる。胃カメラの保険診療は医師の指示が必要となるので、主治医の非番の日でもいいから別の医師を受診してくれと言われた。事務方と医師の権限の違いだから仕方がないことだが、普通なら構成員同士で齟齬のあった組織側で対処すべきだろうと思うが水掛論になるのであきらめた。制度上のことは医師の診察を受ける前に病院の事務方に良く情報を確認しておくべきというのが教訓だ。
エンディングノート ― 2024年09月16日

敬老の日は、元々「としよりの日」として1947年に兵庫県多可町で始まった。「老人を大切にし、年寄りの知恵を借りて村作りをしよう」という趣旨で9月15日に敬老会を開催したのが始まりという。この活動が全国に広まり、1966年に「敬老の日」として国民の祝日に制定され2003年からは9月の第3月曜日に変更された。「高齢者」とは、一般的に65歳以上の人を指す。65歳から74歳までを「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と分類する。日本の75歳以上の人口は約16%、65歳から74歳は13%で、平均寿命は男が81歳、女が87歳だ。自分は今日、とうとう敬老する年齢からされる年齢に変わったわけだ。あまり実感はないが、人口の3割近い高齢者の仲間入りをした。そして、統計学的には50%の確率で、あと16年程で人生が終わる。毎年平均寿命は14日づつ伸びるといっても誤差は1年未満だ。
65歳は終活に入るべき年齢とも言われる。1エンディングノートの作成・2財産の見直しと老後資金の計画・3将来の生活費や財産の整理・4遺言書の作成・5断捨離・身辺整理・6デジタル終活・7住まいの検討・8医療・介護の希望と終活の内容をAIが教えてくれた。エンディングノートは自分のやり残していることや希望を整理するわけだが、後の7つを記載する意味もある。経済的な課題は心配すればキリがない。遺言に残すほどの資産もない。退職を機に家財はほとんど整理した。パスワードやID管理は事務を任されている団体のものを引き継ぐ程度だ。住まいは子どもの世話にならない選択をする予定だ。延命治療は必要なく痛みのない最後を迎えたい。こうして考えると引き継ぐべきものがなければ大して心配するほどのこともなく準備も知れている。問題はこの記憶が続く保障がないことだ。80歳までの認知症の発症確率は1割程度だが、親父は早く発症していたので遺伝的リスクは高い。つまりエンディングノートは自分を忘れてしまう前提で書くものなのだろうと納得している。
65歳は終活に入るべき年齢とも言われる。1エンディングノートの作成・2財産の見直しと老後資金の計画・3将来の生活費や財産の整理・4遺言書の作成・5断捨離・身辺整理・6デジタル終活・7住まいの検討・8医療・介護の希望と終活の内容をAIが教えてくれた。エンディングノートは自分のやり残していることや希望を整理するわけだが、後の7つを記載する意味もある。経済的な課題は心配すればキリがない。遺言に残すほどの資産もない。退職を機に家財はほとんど整理した。パスワードやID管理は事務を任されている団体のものを引き継ぐ程度だ。住まいは子どもの世話にならない選択をする予定だ。延命治療は必要なく痛みのない最後を迎えたい。こうして考えると引き継ぐべきものがなければ大して心配するほどのこともなく準備も知れている。問題はこの記憶が続く保障がないことだ。80歳までの認知症の発症確率は1割程度だが、親父は早く発症していたので遺伝的リスクは高い。つまりエンディングノートは自分を忘れてしまう前提で書くものなのだろうと納得している。
Shrink -精神科医ヨワイ- ― 2024年09月15日

ドラマ『Shrink -精神科医ヨワイ-』(NHK)がおもしろい。本作は、七海仁による原作と月子による作画の漫画を基にし、精神科医・弱井幸之助(中村倫也)と看護師・雨宮有里(土屋太鳳)が、精神疾患を抱える人々に寄り添い治療していくヒューマンドラマだ。監督は『きのう何食べた?』や『大豆田とわ子と三人の元夫』などを手掛けた中江和仁が務め、優しいタッチで精神医療の現実を描く。ドラマは全3話で、取り上げられる精神疾患は「パニック症」「双極症」「パーソナリティ症」だ。中江監督は短い話数で作品をまとめながらも、精神医療に対する理解を深め、病に対する偏見を減らすことを目的として制作に取り組んだという。自分の仕事柄、精神科領域と深くかかわってきたのでこのドラマを興味深く観た。80年代頃までは、DVや非行などの異常行動を全て環境因で説明するものが主流を占めており、家庭環境や親の養育責任にする風潮が強かった。ようやく、脳科学の立場から異常行動がどのようなメカニズムで生じるのかを解明する研究が進み、90年代には薬物療法で対症療法をしながら認知行動療法の有効性が実証されるようになった。ここ20年程は、環境因が脳にダメージを与えることの研究も進み、現在は環境因と脳の器質的なトラブルの両方から治療が考えられるようになっている。
WHOが作成した最新版『ICD-11』の日本語版では、これまでの『パニック障害』『双極性障害』『境界性パーソナリティー障害』は『パニック症』『双極症』『境界性パーソナリティー症』に言い換えられる予定だ。『障害』という言葉が『一生付き合うもの』という印象を与えるため、治療可能性が高まっている現状を反映し『障害』から『症』呼称を使う時代に入ったということだろう。精神科医がドラマのように患者と外出して一緒に治療に取り組むことはほとんどない。初診以外は短時間で診察し患者数を稼がないと経営が成り立たないからだ。ドラマではあえて理想的な精神科医療を示したということだろう。逆に、短時間診察と投薬のみで診療をしているクリニックの問題をコントラストにして描いたのは的を射ている。最終回パーソナリティー症の治療展開は楽観的な印象を与え過ぎだ。せめて10回連続ドラマにしないと精神科治療の難しい部分は表現できないと思う。発達障害と精神科医療を描いたドラマはいくつか見られるが、精神科医療をリアルに描いたドラマは少ない。今後も良質の精神科のドラマ制作を期待したい。
WHOが作成した最新版『ICD-11』の日本語版では、これまでの『パニック障害』『双極性障害』『境界性パーソナリティー障害』は『パニック症』『双極症』『境界性パーソナリティー症』に言い換えられる予定だ。『障害』という言葉が『一生付き合うもの』という印象を与えるため、治療可能性が高まっている現状を反映し『障害』から『症』呼称を使う時代に入ったということだろう。精神科医がドラマのように患者と外出して一緒に治療に取り組むことはほとんどない。初診以外は短時間で診察し患者数を稼がないと経営が成り立たないからだ。ドラマではあえて理想的な精神科医療を示したということだろう。逆に、短時間診察と投薬のみで診療をしているクリニックの問題をコントラストにして描いたのは的を射ている。最終回パーソナリティー症の治療展開は楽観的な印象を与え過ぎだ。せめて10回連続ドラマにしないと精神科治療の難しい部分は表現できないと思う。発達障害と精神科医療を描いたドラマはいくつか見られるが、精神科医療をリアルに描いたドラマは少ない。今後も良質の精神科のドラマ制作を期待したい。
障害者歯科医療での全身麻酔 ― 2024年08月27日

昨年7月、堺市重度障害者歯科診療所で全身麻酔による抜歯治療を受けていた特別支援学校生(当時17歳)が適切な処置を受けずに死亡した。大阪府警は、業務上過失致死容疑で歯科医師の男性所長(55歳)と女性(34歳)を書類送検した。事件は、全身麻酔中に鼻から挿管したチューブの先端が気管から外れたにもかかわらず、適切な処置が行われなかったことが原因とされる。府警の調査によると、血中酸素飽和度が急低下した際、2人は気管支けいれんを疑い気管支拡張剤を投与したが効果はなく、心肺停止状態となり別の病院に搬送された。所長は「チューブの位置を確認しなかったことがミスだった」と供述し、女性は「気管支けいれんの処置に固執してしまった」と述べている。府警は、異常を認識した後すぐにチューブの位置を確認せず、救急要請も遅れたことが死亡につながったと判断し送検した。重い知的障害などを伴う人への歯科医療は困難だ。障害者歯科医療施設は、ASD等の障害特性に応じた診療(視覚的支援)や全身麻酔による治療も行えるので障害者の歯科治療の砦ともいえる。自分も何人かの重度の知的障害の生徒の保護者に全身麻酔治療を勧めたことがあるので、この事故は本当に残念だ。
全身麻酔は人工呼吸管理が必須となるので麻酔医が必要となる。麻酔医資格取得には、医師免許取得後麻酔医指導の下2年の臨床経験が条件だ。だが、歯科治療の範囲内なら全身麻酔であっても麻酔医を必ずしも置く必要はなく、学会認定の歯科麻酔医が関わる。歯科麻酔医認定の条件は、200例以上の全身麻酔症例(歯科症例を100例以上含む)と50例以上の鎮静症例を担当した臨床経験が必要とされる。歯科麻酔学会ができたのは1980年代なので2000年代には全身麻酔が歯科麻酔医によって普及し、各地で障害者歯科診療所が開設された。歯科医師免許だけの歯科医が全身麻酔を行うから事故が起こるという中傷は歯科麻酔医の存在を知らないのだろう。麻酔医も歯科麻酔医も学会認定だが、麻酔科医を標榜するには厚労省の認可が必要で、認可されれば歯科治療を含むすべての麻酔医療に関われるという違いはある。だが、現場での麻酔の専門家という意味では変わらない。今回の事故は、気管に呼吸器チューブ挿入が確認されずに事態が悪化したという初歩的なミスで障害者歯科医療が杜撰だという印象を与えてしまうが、歯科麻酔医だから起こった事故ではないと思う。
全身麻酔は人工呼吸管理が必須となるので麻酔医が必要となる。麻酔医資格取得には、医師免許取得後麻酔医指導の下2年の臨床経験が条件だ。だが、歯科治療の範囲内なら全身麻酔であっても麻酔医を必ずしも置く必要はなく、学会認定の歯科麻酔医が関わる。歯科麻酔医認定の条件は、200例以上の全身麻酔症例(歯科症例を100例以上含む)と50例以上の鎮静症例を担当した臨床経験が必要とされる。歯科麻酔学会ができたのは1980年代なので2000年代には全身麻酔が歯科麻酔医によって普及し、各地で障害者歯科診療所が開設された。歯科医師免許だけの歯科医が全身麻酔を行うから事故が起こるという中傷は歯科麻酔医の存在を知らないのだろう。麻酔医も歯科麻酔医も学会認定だが、麻酔科医を標榜するには厚労省の認可が必要で、認可されれば歯科治療を含むすべての麻酔医療に関われるという違いはある。だが、現場での麻酔の専門家という意味では変わらない。今回の事故は、気管に呼吸器チューブ挿入が確認されずに事態が悪化したという初歩的なミスで障害者歯科医療が杜撰だという印象を与えてしまうが、歯科麻酔医だから起こった事故ではないと思う。