高関税発動を延期2025年04月11日

高関税発動を延期
トランプ政権がわずか半日で一部関税の発動を延期した背景には、表向きには「消費者への影響を避けるため」と説明されたが、実際には米国債市場の動揺、いわゆる“国債暴落”への懸念が大きく影を落としていた可能性が高い。これまで「リスクフリー資産」とされてきた米国債は、関税政策や中国との対立激化を受け、株・債券・ドルが同時に売られるという異常な状況に見舞われた。これは、米国経済や財政に対する投資家の信頼が揺らぎ始めている兆候に他ならず、米国債がもはや安全な避難先として機能しなくなりつつあることを示していた。加えて、米国債の主要保有国である中国や日本の動きも見逃せない。もし外国人投資家が米国債を本格的に売却すれば、長期金利が急騰し、ドルも下落する。その結果、政府の借入コストが上昇し、財政運営は一層厳しさを増すことになる。株価を政権の成果と位置付けてきたトランプ政権にとって、こうした市場の混乱は単なる経済問題ではなく、政治的な打撃ともなりうる。したがって今回の関税延期は、単なる政策の微調整ではなく、国債市場や金融システム全体の安定を守るための“退却”だったとも言える。

株価の乱高下に一喜一憂する向きもあるが、株式市場は経済活動が続く限り、いずれ回復する可能性がある。しかし、国債価格の下落は国の信用そのものを揺るがし、民間の借入コストや企業の経営、ひいては雇用や実体経済に深刻な影響を与える。とりわけ、株式市場から距離のある下層労働者層の生活が直撃されれば、トランプ支持層の離反にもつながりかねない。この間、日本が米国債を売ったという噂もあるが、より現実味があるのは、中国が戦略的に売り浴びせを行ったという見方だ。米国債を売れば中国自身の資産も減るが、それでも100%超の関税を科された状況下では「背に腹は代えられない」との判断だったのだろう。だが、こうなると高関税と米国債売却の応酬となり、基軸通貨ドルの信用が損なわれれば、その影響は世界全体に波及する。日本としては静観を保ちつつ、中国産太陽光パネルに依存しない電力資源の開発に投資し、国内の産業と農業を早急に立て直すことが肝要だ。だが、それを迅速に実行できる政府が今の日本にあるかというと、残念ながら心もとない。

尹錫悦大統領罷免2025年04月04日

尹錫悦大統領罷免
韓国の憲法裁判所が尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の罷免を決定した翌日、韓国の主要紙はこの判断を高く評価し、国民の統合を呼びかけた。今回の判断は裁判官全員一致で下され、保守系・革新系を問わずメディアはその正当性と重みを強調した。革新系のハンギョレ新聞は「大統領弾劾は市民の常識と憲法的熱望の勝利」と評し、京郷新聞は「無血の市民革命」と称賛。社説では、民主主義が危機に瀕するたびに国民の力でそれが立て直されてきたと述べている。一方、保守系の朝鮮日報は、昨年12月の非常戒厳から約4カ月にわたり、社会が「心理的内戦状態」と言えるほど分断されたと指摘し、次期大統領候補に対して国民統合への努力を求めた。憲法裁は、戒厳の違憲性や軍を用いた国会封鎖の試みなど、弾劾訴追の主要な争点について全面的に認定。中央日報は「すべての議論に終止符を打った」と強調し、政治家や国民に決定を受け入れるよう呼びかけた。尹氏は、2017年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領に続き、史上2人目の弾劾罷免された大統領であり、韓国の憲政史に再び大きな傷跡を残すこととなった。朝鮮日報は現行の大統領制について、与党と野党の極端な対立を生む「無限政争構造」と批判し、大統領選後の改憲を提案している。大統領制は、大統領が国民から直接選ばれ、議会と分立して強い権限を持つため、リーダーシップが安定し迅速な意思決定が可能である。一方で、行政府と議会の対立や権力集中による独裁化のリスクが課題となる。議院内閣制は、首相が議会多数派から選ばれるため政策の一貫性が高く、政権交代も柔軟に行える点が特徴だが、政権の不安定さや連立政権に伴う複雑性、首相の権限制限などの課題もある。いずれの体制も国の実情に即した運用が求められる。

尹大統領の戒厳令発布は、たとえ多数野党による政争に起因したとしても、それを「内乱」と断じたこと自体に大きな問題がある。一方、米国のトランプ大統領が議会承認を経ずに関税政策を進めた例も、「武器なき世界戦争」の始まりとも言え、民主主義としての正当性に疑問が残る。大統領制は、トップが自制的でなければ国内外に分断をもたらすリスクがある。ただし、議院内閣制も行政のコントロールが難しく、選挙を経ない行政官の意向が反映されやすいという点で、必ずしも民主的とは言い切れない。どちらの体制が優れているとは一概に言えないが、いずれも国民の支持が得られなければ政権は交代するため、独裁国家よりははるかに健全である。ただし、マスメディアによる恣意的な偏向報道は、国民の判断を誤らせる恐れがあるため、まずは報道の民主的な手続きを優先的に見直すべきである。

トランプ高関税発動2025年04月03日

トランプ高関税発動
トランプ米大統領は「相互関税」と称する関税措置を発表し、すべての貿易相手国に最低10%の関税を課す方針を示した。さらに、貿易赤字や貿易障壁を考慮し、追加の税率を設定するとした。この措置は米東部時間4月5日未明に基本部分が発効し、9日未明から各国への追加関税が適用される。トランプ氏は日本市場の閉鎖性を批判し、日本のコメには700%の関税が課されていると指摘。日本に24%、EUに20%、中国に34%の関税を設定すると説明した。政府高官は「巨額で慢性的な貿易赤字」が問題であるとし、「緊急事態」を宣言する文書に署名したと述べた。また、相互関税の追加分は貿易赤字の規模や非関税障壁を考慮して算出され、「最悪の違反者」とされる60カ国以上に高い税率が適用される。この措置により貿易摩擦の激化や世界経済への影響が懸念されている。トランプ氏は演説で「今日は長く待ち望んだ解放の日だ」と述べ、相手国に課す税率を示したボードを掲げるなど、強硬な姿勢を示した。さらに、日本車には25%の追加関税を課すとし、日本政府は引き続き米国との交渉に臨む方針を示している。しかし、トランプ氏や米国共和党の真の意図は不透明である。米国製造業の復活を目的とした高関税政策とされるが、高関税は他国からの輸入品価格を引き上げるため、米国内の供給が追いつくまでの間、インフレを引き起こす要因となる。政府が関税収入を国内減税に充てるとしても、輸入量の減少による供給不足がさらなるインフレを招く可能性がある。その結果、関税収入の減少が避けられず、この政策がうまく機能するとは思えない。

一方、各国は米国への輸出依存を減らし、非関税の市場への転換を模索すると考えられる。インフレによって高騰した米国製品は競争力を失い、結果的に中国やインドなどの製品が市場を席巻する可能性が高い。これにより、米国が中国の経済拡大を抑えようとする意図とは逆の現象が起こり、米国抜きのサプライチェーンが形成される契機となるかもしれない。もちろん、米国には世界が追随できないデジタル産業や宇宙・エネルギー産業が存在し、今後もこれらを主要な収益源とすることが予想される。しかし、民生製造業の復活は容易ではない。日本はいつまでも米国に依存するのではなく、大企業は600兆円に達する利益剰余金の半分でも活用して大幅な賃上げを実施し、政府は大幅な減税を行い、国民の可処分所得を増やすことで購買力を強化すべきである。また、政府投資の制限となっているプライマリーバランス論を捨て、積極的な公共投資を推進することが重要だ。日本のGDPの約6割は国内消費が占めるため、これを拡大する努力こそが必要である。米国の高関税政策に振り回されても、決定権は米国にあるため、先行きは極めて不透明である。それよりも、この機を国内生産と消費を伸ばす好機と捉え、政策を展開していくべきだ。しかし、頑なに減税を拒み負担増だけを求め激動する世界情勢の中で何をしたいのかわからぬ現政治体制では、その実現は難しい。

ファタハとヨルダン川西岸2025年03月23日

ファタハとヨルダン川西岸
パレスチナ自治政府のアッバス議長率いるファタハは22日、対立するハマスに対し、ガザ地区のパレスチナ人の存立を守るため権力を放棄するよう求めた。ファタハは、ハマスが統治を続ければパレスチナ人の存在が危機に直面すると警告。ハマスは2007年にガザの権力を掌握して以降、和解の試みは失敗している。2023年10月のハマスの越境攻撃に対するイスラエルの報復攻撃でガザは壊滅的な被害を受けた。ハマスは戦後にガザ支配を返上する用意があるものの、武力放棄は拒否。エジプトの提案する専門家らによる独立委員会の設置を支持しつつ、民族的合意を重視すると表明した。一方、アッバス議長は同委員会をパレスチナ自治政府に報告させるべきだと主張し、自治政府のガザ統治の正当性を強調しているが、イスラエル政府はこれを拒否している。パレスチナ問題は非常に複雑で、解決の糸口を見出すのは容易ではない。ガザをイスラエルに、ヨルダン川西岸をパレスチナにというような和平策が考えられるかもしれない。

1967年の六日戦争におけるヨルダン川西岸の占領も、ユダヤ人を排斥しようとするイスラム勢力のテロやアラブ諸国の挑発が契機となった。結果的にイスラエルを孤立させ、独立した民主国家が反撃したのは当然ともいえる。ただ、パレスチナ側もハマスの武力を排除して政権を統一するならば、イスラエルはヨルダン川西岸をパレスチナに一気に返還し、破壊し尽くしたガザはイスラエルに帰属させて復興を進める方法も考えられるのではないか。しかし、米国の軍事力を背景にしたイスラエルがパレスチナの要求に容易に応じることは考えにくい。イスラエルの占領地の割譲と引き換えに交渉を進めるのが現実的かもしれないが、中露寄りの立場を強めるイランの影響もあり、簡単には進展しないだろう。

硫黄島星条旗写真の削除2025年03月19日

硫黄島星条旗写真の削除
米国防総省が、太平洋戦争の激戦地・硫黄島で1945年2月に米軍が星条旗を掲げた歴史的写真をウェブサイトから削除したと、ワシントン・ポストが報じた。この写真はAP通信のカメラマンが撮影し、ピュリッツァー賞を受賞した有名な一枚である。削除の背景には、国防総省が進める多様性・公平性・包括性(DEI)に関する方針があるとされ、写真に米先住民の海兵隊員が写っていたことが影響した可能性が指摘されている。また、国防総省は、広島に原爆を投下したB29爆撃機「エノラ・ゲイ」を削除候補に指定。「ゲイ」という単語が男性の同性愛者を指す言葉と誤認された可能性があると報じられている。米軍は近年、DEI政策を推進してきたが、その見直しが進む中で、戦争の重要な記録が消去される動きが再び表面化した。硫黄島の戦いは米軍の太平洋戦線における重要な勝利の一つとされる。今回の写真削除は、歴史的記録の扱いに関する議論を呼び起こしている。これを報じたワシントン・ポストも共同通信も、リベラル寄りと見なされることが多く、アメリカの政治において民主党寄りの報道姿勢が指摘される。そのため、今回の報道の説明が中立的かどうかは疑問が残る。バイデン政権のDEI政策の影響で、コロンブスが黒人迫害をしたとして市民が銅像を破壊したり、南北戦争の南軍の軍人銅像を撤去したりする動きが加速し、米国内の分断が進んだ。今回の国防総省のウェブサイトでの掲載削除報道は、写真そのものが消滅したわけではないし、バイデン政権下での実物の破壊行動と比較する報道もほとんど見られない。

しかし、歴史的価値が確定している作品に対し、評価を理由に撤去や削除を行うのは間違いだ。特に、国民の評価が分かれる事柄については、公平で中立的な扱いが重要だ。例えば明治政府に反逆した西郷隆盛や江藤新平の銅像が破壊されたら、国民はどう感じるだろうか。また、中国大陸への侵攻の礎となった203高地の奪還を描いた司馬遼太郎氏の作品や、ピュリッツァー賞を受賞した沢田教一氏のベトナム戦争の写真集が図書館から排除されたら、市民の反応はどうなるだろうか。作品に対する歴史的評価が存在することは問題ではないが、市民運動や政府の意向によって排除する行為は、表現の自由を守る民主主義を損なうものである。今回の国防総省の対応は、行き過ぎたDEI政策へのカウンター行動と考えられる。しかし注意すべきなのは、政権が意図しない行動を点数稼ぎの役人が行うことだ。ジョー・ローゼンタールの作品は、人種を超えた兵士たちが激戦を勝ち抜いた姿を表現しており、その構図も評価されている。長い間、アメリカの歴史的記録として広く知られ、さまざまな場面で使用されてきた写真を「多様性を描いているから問題がある」として削除するのは、あまりにも浅はかな判断ではないか。

トランプ米政権の関税政策2025年03月14日

トランプ米政権の関税政策
トランプ米政権の関税政策が景気の先行きを不透明にしている。4月に新たな関税措置を発動予定で、市場は警戒を強めている。米国の関税強化に対し、中国は報復関税を実施し、EUやカナダも対抗措置を表明。貿易摩擦の激化による経済の停滞が懸念される。エコノミストは経済成長予測を下方修正し、景気後退リスクの高まりを指摘。JPモルガン・チェースは米国の景気後退確率を40%に引き上げ、ウェルズ・ファーゴは世界経済が2026年に景気後退に陥る可能性を示唆した。トランプ氏の関税強化姿勢を受け、10日のNYダウは1100ドル超下落。12日にはEUの対米報復計画に対し、「やり返す」と述べ、さらなる対抗措置を示唆した。まさに関税戦争である。武力こそ用いないが、このエスカレーションは歴史上、恐慌や世界大戦の引き金となったことがある。トランプ氏によれば、関税を引き上げるのは輸入品を締め出し、国内産業を復活させるためだという。しかし、関税は自国民が値上げの負担を強いられる政策でもある。つまり、コストプッシュインフレを引き起こし、ようやく落ち着きを取り戻した米国内の物価が再び高騰する恐れがある。

おそらく、増収となる関税を減税や国内投資に充てるというシナリオを持っているのかもしれないが、これもインフレ要因となり、結果としてFRB(米連邦準備制度理事会)は金利を引き下げられず、為替はドル高が進行し、米国の輸出は伸び悩むことになる。関税戦争が続けば、インフレによる価格高騰とドル高に加えて、関税負担もかさみ、米国製品はますます他国から敬遠されるだろう。アメリカの主要輸出品には精製石油、航空機、自動車、医薬品、半導体、トウモロコシや大豆などの農産物があるが、輸出額はGDPの約13%だ。トランプ氏は輸出量が減少しても国内生産を拡大し、インフレを抑制しようと考えているのかもしれない。しかし、その戦略に市場が納得する保証はない。また、高関税を課すアメリカを嫌い、各国が独自の経済圏を形成すれば、世界第2位の経済規模を誇る中国がその中心となる可能性が高い。アメリカが最大の標的とした中国経済がむしろ活性化する事態も考えられる。つまり、安全保障の観点からも、この関税政策は米国にとってマイナスに働く恐れがある。トランプ氏の関税政策は理屈では説明がつかず、予測不可能な要素が多い。関税戦争が世界恐慌や世界大戦へとつながらないことを願うばかりである。

中国人の「教育移住」2025年03月07日

中国人の「教育移住」
中国人の「教育移住」が近年注目を集めている。中国国内の激しい受験競争を避け、日本の教育機関に子供を入学させるために一家で移住するケースが増加。対象は大学や高校だけでなく、小学校にまで広がっている。特に東京都文京区では、東大や筑波大学の東京キャンパスがあることから教育環境の良さが評価されており、誠之、千駄木、昭和、窪町の4校を指す「3S1K」学区の人気が高い。中国のSNS「小紅書」では名門小学校のランキングが紹介されるなど、情報拡散が人気を後押ししている。不動産会社によると、教育移住の需要増により物件依頼が殺到しているが、学区内の物件数が追いついていない。富裕層が多く、家賃に糸目をつけない依頼も多いものの、希望条件の物件が確保できず狭い間取りで妥協するケースが多い。駅チカや広さよりも学区が優先され、住民票のみを移して通学権を得る事例も見られる。文京区教育委員会は、教育内容は同一であると過熱に疑問を呈する。一方で外国籍の児童数は急増しており、令和6年度は小学生467人と元年度の約2.4倍に。日本語指導協力員を配置するなどの支援体制を整え、今後の増加にも柔軟に対応する方針だ。文京区の小学生総数約1万3千人のうち、外国籍の児童は約5%にあたり、30人学級なら1クラスに2人程度の在籍率となる。同区の2023年の平均所得額は約707万円で全国ランキング7位の自治体であり、文京区ならこの程度の児童数増加や日本語指導員の追加配置による支出の影響は少ないのかも知れない。

しかし、教育目的の移住では、子供が大学を卒業するまで最低16年間も家族全員が日本に滞在できる点が懸念される。保護者は在留資格を取得して職業活動を行うことが一般的であり、代表的な資格には経営・管理ビザがある。このビザは500万円以上の出資や常勤職員の雇用が必要で、近年取得者が急増している。また、技術・人文知識・国際業務ビザはITエンジニアや通訳などの専門職向けであり、多くの中国人が利用している。これらの制度を利用して滞在している中国人は現在10万人以上にのぼる。この制度により、保護者は子どもの教育を支援しながら長期滞在ができる。高額納税者ならばと受け入れを肯定する向きもあるが、外国籍の子弟が500万円の親の投資で日本人と同じ条件の教育サービスや安全な住環境を享受できることは、約7000万円の投資が必要な米国に比べてあまりにも寛容な移住政策と言える。また、高額納税在留者の中には日本の高度な技術に関与し、中国に高度な技術情報が漏洩した事件も後を絶たない。これは、中国国家情報法(2017年施行)が、中国国民や組織に対して国家安全保障のために海外の情報収集活動に協力する義務を課していることと無関係ではない。経済安全保障の観点からも、高額納税者だからと安易に受け入れるのは、お人好しを通り越している。

選挙公約通りのトランプ2025年03月03日

選挙公約通りのトランプ
トランプ大統領とゼレンスキー大統領がロシアへの外交姿勢を巡る対立から激しい口論に発展し、予定されていた合意文書への署名は見送られた。ウォルツ大統領補佐官はテレビ番組でゼレンスキー大統領の態度を「信じられないほど無礼」と批判し、ウクライナには戦争終結のための交渉に前向きな指導者が必要だとの認識を示した。また、戦争を終わらせるためには領土に関する妥協が避けられないと述べた。取材によると、トランプ政権の幹部は口論後に協議を打ち切るよう提言し、ウォルツ補佐官がウクライナ側に退席を求めた。ゼレンスキー大統領は議論の継続を希望したが、補佐官は「アメリカの寛容さには限界がある」と伝えた。メディアは一斉にトランプ氏の態度を非難し、ウクライナ支援への声を上げているが、大統領選時のオールドメディアによるトランプ叩きを思い出すと、メディアの見方が本当に正しいのか疑問に思う。ロシアがウクライナに侵攻したのは事実であり、1994年のウクライナの核放棄と引き換えに米英露が安全保障を約束した「ブダペスト覚書」からすれば、米国がウクライナを守るのは当然というゼレンスキーの主張も理解できる。しかし、トランプ政権にとっては、ゼレンスキーは米国民主党に踊らされ、米国の富を戦費につぎ込ませる道化に映っているのかもしれない。

アメリカはUSAIDやCIAを使い、反ロシア勢力を支援して両国の不安定化を煽り、ロシアのクリミア半島併合や東ウクライナでの親ロシア勢力への介入を誘発したとも言える。オバマ政権時代のバイデン副大統領は、金権腐敗したウクライナ政権と資源利権を巡ってリベートを得ていたとの疑惑もある。トランプにしてみれば紛争と汚職の原因につながるアメリカの世界覇権の動きを正常化したいのだろう。紛争原因になる国際策動やその背後で工作する行政機構を整理すると公約していたトランプにとって、今回の会談決裂は当然の帰結とも言える。戦争は終結すべきだがウクライナは支援しないというのもトランプの公約の一つだった。大統領選挙の真っ最中に、民主党大統領候補ハリス氏と握手したゼレンスキーの行動を現共和党政権が忘れているはずがない。今回、ゼレンスキーは会談の前に両党の有力議員から助言を得たとされる。共和党議員からは「資源提供の話だけして、安全保障には触れるな」と言われ、民主党議員からは「戦争協力と安全保障の約束を引き出すまで譲るな」と助言されたという。ゼレンスキーの言動を見ると、民主党議員の助言を信じたのだろう。そういう意味では、トランプは選挙公約通りに動いているだけであり、今回の破談もそれほど驚くことではなかった。もちろん、侵略しているのはロシアであり、祖国を守ろうとしているのはウクライナであることに変わりはない。しかし、トランプにとっては、どのような形でも戦争を終結させることが最優先であり、それ以外の選択肢はないのだと思う。

KKパーク2025年02月27日

KKパーク
ミャンマー東部の武装勢力「BGF」は、特殊詐欺の犯罪拠点を一掃する作戦を実施し、7,141人の外国人を解放した。タイ国境近くの「KKパーク」では、多くの外国人が詐欺活動に加担させられていたとみられ、BGFは1月以降、複数の拠点を捜索した。解放された外国人の国籍は中国、ベトナム、インド、エチオピアなど28カ国・地域に及ぶ。KKパークは、2021年の軍事クーデター後の混乱に乗じた中国系犯罪組織が通信インフラを整備し、誘拐や人身売買で集めた外国人を厳しい監視下で長時間労働させる詐欺拠点である。恋愛詐欺、投資詐欺、仮想通貨詐欺などの手口で世界中から金銭を騙し取っていた。ノルマ未達時には拷問が行われるなど非人道的な環境が報告されている。BGFの捜索活動は継続中であるが、犯罪組織の一部は作戦前に逃走したとみられる。国際社会はタイやミャンマーの関係機関と連携し、摘発活動や情報共有を進めている。しかし、問題の根本的な解決にはミャンマー国内の政治的安定と法の支配の確立が不可欠だ。救出された被害者への支援や国際的な連携強化も重要な課題となっている。

同じ特殊詐欺拠点である泰昌パークからは、日本人高校生が救出された。SNSを通じて誘い出された高校生は、タイ経由で拠点に連れ去られ、特殊詐欺の「かけ子」として働かされていたとみられる。同様の事件で、他にも複数の日本人がミャンマーの特殊詐欺拠点に監禁されている可能性があり、関係機関が救出に向けて捜査を進めているという。無法地帯には無法者が蔓延り、時代劇かと思うような人身売買や虐待がこの時代にも続いていることをまざまざと見せつけられる。さかのぼればミャンマー民主政府をクーデターで転覆させた軍政の結果ともいえるが、クーデターでなくとも独裁国家の下で同じような現象が起こっている。深刻なのはSNSの普及で人さらいが世界規模で生じているということだ。海外で一儲けと世界情勢やネットリテラシーの知識のない若者が餌食になっているのは、平和なお花畑の日本人だけではない。「騙される者が悪い」とは言っていられない。

ヘイトスピーチ規制は「検閲」2025年02月15日

ヘイトスピーチ規制は「検閲」
米国のバンス副大統領は14日、ミュンヘン安全保障会議で演説し、欧州のヘイトスピーチ規制を「検閲」と批判した。ウクライナ情勢にはほとんど触れず、「米国第一主義」を掲げるトランプ政権と欧州の亀裂が鮮明となった。また、欧州各国に防衛費の増額を求めた。バンス氏は欧州政治の現状を「民主主義の原則に反する」と非難し、極右政党AfDのワイデル共同党首とも会談。これに対し、ドイツなどから「選挙干渉」との批判が出ている。ドイツのネットワーク執行法(NetzDG)は、SNS上の違法コンテンツを迅速に削除することを企業に義務付けた法律で、2017年に施行された。ユーザー数200万人以上のSNS企業が対象で、ヘイトスピーチや誹謗中傷などの「明らかに違法な投稿」は24時間以内、調査が必要な場合は7日以内に対応しなければならない。違反した企業には最大約80億円の罰金が科される。2021年の改正で、不服申し立て制度や警察への通報義務が追加された。一方で、表現の自由の侵害や企業の負担増加といった批判もあり、現在はEUのデジタルサービス法(DSA)に統合され、規制の枠組みが拡大している。ドイツ国民から移民問題などで批判の的になっているドイツ社民党など左翼勢力は国民批判を規制したいのだろうが、バンス副大統領は表現の自由を侵す「行き過ぎた規制」だと批判しているに過ぎない。

罰金を恐れた企業は自主規制を強め、その結果、かつての米国民主党政権下でのSNSのように、投稿が事前に削除される事態が発生している。この状態は、冷静に見れば中国やロシアなどの独裁国家の情報統制と変わらない。日本でも、SNS上のヘイト発言や偽情報の拡散を規制するかどうかについて政治議論が進んでいる。確かに、目を覆いたくなるような罵詈雑言がSNS上にあふれる現状を見ると、大人の議論とは思えず情けなくなる。しかし、これを政治権力が規制するとなると話は別だ。歴史的に見ても、権力者はしばしば誤った判断を下してきた。「どの表現が正しく、何が間違いか」を権力が決めることがあってはならない。問題なのはSNSの発言そのものではなく、「匿名投稿」である。匿名性は自由な発言を担保する一方で、過激な投稿を助長する。例えば、ネット上で特定の投稿が一定数以上の批判を受けた場合に実名を公表する仕組みを導入すれば、発言に責任を持たせることが可能ではないか。また、拡散したユーザーも同時に実名公開とすることで、投稿の削除に頼らず、表現の責任を問う方法も考えられる。表現については権力不介入の原則を貫くべきだ。
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