日本版DBSマーク ― 2025年12月26日
「子どもを守る」。この言葉ほど、耳触りがよく、同時に中身が問われるスローガンもない。こども家庭庁が公表した「日本版DBSマーク」は、その典型例だ。子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認し、可視化する——理念だけを見れば、反対する理由はない。だが、制度の実像を丁寧に見ていくと、未然防止の決定打にはなり得ない現実が浮かび上がる。制度は2026年12月施行。学校や認可保育所などの法定事業者には、性犯罪歴の確認と安全確保措置が罰則付きで義務付けられる。一方、学習塾やスポーツ教室などの民間事業者は任意参加にとどまる。「社会全体で子どもを守る」と掲げながら、制度の網のかかり方は一様ではない。
とりわけ学校は、希望者だけが選ぶサービスではない。義務教育として、原則すべての子どもが通う公共制度であり、保護者にとっても「利用しない」という選択肢はない。その学校における安全対策が不十分であれば、影響は例外なく社会全体に及ぶ。だからこそ、学校を起点に制度改善を徹底する意義は大きい。
にもかかわらず、日本版DBSが照会できるのは「子ども対象性犯罪の有罪判決」という刑事確定記録に限られる。示談、不起訴、嫌疑不十分、内部調査で事実が認定されたケースは、すべて制度の外に置かれる。照会結果は「なし」。だがそれは、安全の保証ではない。前科がつかない性加害が学校現場で繰り返されてきた事実を思えば、この限界は致命的だ。
氏名変更への対策が盛り込まれている点は評価できる。しかし、そもそも犯罪歴が存在しなければ、どれほど厳格に照会しても結果は「白」のままである。日本版DBSは、あくまで「前科のある者」を排除する仕組みであり、未然防止の全体像を担える制度ではない。
これと対をなすのが、教員免許失効リスト(特定免許状失効者等データベース)だ。刑事事件化されない性的ハラスメントや不適切行為で懲戒免職となった教員を、前科の有無にかかわらず把握できる点で、現場の実態に即している。性加害の“刑事の手前”を捉えられる、数少ない制度である。
しかし、この制度は十分に機能していない。採用時の確認義務に罰則がなく、文科省調査では活用率は全国で約3割にとどまる。氏名変更への耐性も弱く、本人確認の厳格性もDBSほど高くない。懲戒処分の基準が自治体や学校法人ごとにばらつき、重大事案であっても懲戒免職に至らない例が少なくないことも、制度の実効性を損なっている。
結局、日本版DBSと免許失効リストは、どちらか一方では不十分だ。DBSは「前科のある性犯罪者」を防ぎ、失効リストは「前科はないが重大な不適切行為を行った教員」を防ぐ。対象は重ならず、補完関係にある。だからこそ、学校という社会全体が必ず利用する場を起点に、両制度を一体として強化すべきなのである。
「社会全体で子どもを守る」という理念を本気で掲げるなら、部分的な制度導入で満足してはならない。日本版DBSの義務化を契機に、免許失効リストにも罰則付き確認義務と氏名変更を前提とした厳格な本人確認を法的に担保する——学校から一気に制度改善を進める覚悟が、今こそ問われている。
マークを掲げることがゴールになった瞬間、制度は形骸化する。学校という公共制度を預かる以上、求められるのは表示ではなく、実効性である。
とりわけ学校は、希望者だけが選ぶサービスではない。義務教育として、原則すべての子どもが通う公共制度であり、保護者にとっても「利用しない」という選択肢はない。その学校における安全対策が不十分であれば、影響は例外なく社会全体に及ぶ。だからこそ、学校を起点に制度改善を徹底する意義は大きい。
にもかかわらず、日本版DBSが照会できるのは「子ども対象性犯罪の有罪判決」という刑事確定記録に限られる。示談、不起訴、嫌疑不十分、内部調査で事実が認定されたケースは、すべて制度の外に置かれる。照会結果は「なし」。だがそれは、安全の保証ではない。前科がつかない性加害が学校現場で繰り返されてきた事実を思えば、この限界は致命的だ。
氏名変更への対策が盛り込まれている点は評価できる。しかし、そもそも犯罪歴が存在しなければ、どれほど厳格に照会しても結果は「白」のままである。日本版DBSは、あくまで「前科のある者」を排除する仕組みであり、未然防止の全体像を担える制度ではない。
これと対をなすのが、教員免許失効リスト(特定免許状失効者等データベース)だ。刑事事件化されない性的ハラスメントや不適切行為で懲戒免職となった教員を、前科の有無にかかわらず把握できる点で、現場の実態に即している。性加害の“刑事の手前”を捉えられる、数少ない制度である。
しかし、この制度は十分に機能していない。採用時の確認義務に罰則がなく、文科省調査では活用率は全国で約3割にとどまる。氏名変更への耐性も弱く、本人確認の厳格性もDBSほど高くない。懲戒処分の基準が自治体や学校法人ごとにばらつき、重大事案であっても懲戒免職に至らない例が少なくないことも、制度の実効性を損なっている。
結局、日本版DBSと免許失効リストは、どちらか一方では不十分だ。DBSは「前科のある性犯罪者」を防ぎ、失効リストは「前科はないが重大な不適切行為を行った教員」を防ぐ。対象は重ならず、補完関係にある。だからこそ、学校という社会全体が必ず利用する場を起点に、両制度を一体として強化すべきなのである。
「社会全体で子どもを守る」という理念を本気で掲げるなら、部分的な制度導入で満足してはならない。日本版DBSの義務化を契機に、免許失効リストにも罰則付き確認義務と氏名変更を前提とした厳格な本人確認を法的に担保する——学校から一気に制度改善を進める覚悟が、今こそ問われている。
マークを掲げることがゴールになった瞬間、制度は形骸化する。学校という公共制度を預かる以上、求められるのは表示ではなく、実効性である。