昔ラジオ今スターリンク2026年02月14日

昔ラジオ放送今スターリンク
イランで反政府デモが拡大したとき、当局が真っ先に遮断したのは道路でも電力でもない。インターネットだった。全国規模の通信停止――現代における“見えない戒厳令”である。世界から切り離された瞬間、市民は沈黙を強いられる。だが、その沈黙を宇宙から破ろうとする動きがあった。主役は、SpaceXの衛星通信サービス「Starlink」。米国は約6000台の端末を水面下で搬入し、政府の遮断を迂回して市民が外部とつながる回線を確保しようとした。夜の屋上に小型アンテナを設置し、短い時間だけ世界と接続する――そんな光景が各地で見られたとされる。だが端末所持は違法。治安当局は摘発と没収を繰り返し、発見されれば拘束のリスクもある。宇宙から届く電波と、地上の権力装置との静かな攻防。ここに、21世紀型の情報戦の最前線がある。

思えば冷戦期、米国は「Voice of America」で電波を送り続けた。しかしそれは“聞かせる”一方向の戦いだった。いまは違う。“つながせる”戦いである。スターリンクは主張を押し付けない。ただ回線を差し出す。イランでは情報遮断の突破口となり、ウクライナでは軍事通信インフラとして機能した。同じ技術を政治にも軍事にも転用する柔軟さこそ、アメリカの現実主義だ。

中国やロシアのような国家は、地上ネットワークを厳格に管理することで体制の安定を維持してきた。だが衛星通信は国境も検閲も飛び越える。現在はアンテナが必要なため物理的摘発が可能だが、低軌道衛星の増加やスマートフォン直結型通信の開発が進めば状況は一変する。2027〜2030年には一般端末での衛星接続が現実味を帯びるとの見方もある。そうなれば、国家が“スイッチ一つで沈黙させる”時代は終わるかもしれない。

もちろん権威主義国家も黙ってはいない。ジャミング、衛星妨害、端末規制、独自衛星網の構築、法的禁止、電波監視、そして巧妙なプロパガンダ。対抗策は重層化している。だが彼らが本当に恐れているのは通信そのものではない。制御不能な「接続」だ。

SNSが火種となった「アラブの春」を思い起こせば、接続の自由がもたらす衝撃は想像に難くない。国家と宇宙インフラの攻防は始まったばかりだ。しかし歴史を振り返れば、“閉じる力”が永遠に勝ち続けた例はない。上空を巡る無数の衛星は、静かに問いかけている。情報を支配するのは国家か、それとも接続そのものか。

コメント

トラックバック