NHKの受信料制度2025年11月25日

NHKの受信料制度
NHKの受信料制度が、いま深刻な“制度の地鳴り”を起こしている。未収件数は令和元年度の72万件から、令和7年度には174万件へ――実に2倍超の膨張だ。簡裁への支払い督促申立件数も前年の10倍以上に跳ね上がり、徴収の現場はもはや“金融事故”じみたひっ迫状態である。コロナ禍による対面営業の制約、オートロック物件の増加、そしてNHK自身が進めた巡回型営業の縮小。複数の要因が絡みあい、徴収網は目に見えてほころび始めた。

追い込まれたNHKは、「公平負担」の旗印の下で「受信料特別対策センター」を立ち上げ、ネット広告、郵便、さらには限定的な訪問営業に再び舵を切った。だが、視聴者の空気は重い。経済的困窮だけでなく、「番組姿勢が偏っている」「公的機関に見合う説明責任がない」など、意見・要望の七割以上が批判的だ。公共放送として“特定の利害に左右されない”と強調してきたNHKだが、その存在意義の中核が揺らぎつつある。

深刻なのは、単なる収入減ではない。制度自体が、テレビの時代を前提にした“化石構造”となり、ネット視聴が主流となった現在の生活様式にそぐわなくなっている点だ。徴収基準は依然としてテレビ受信機に紐づけられ、これが都市部ほど“徴収不能ゾーン”を生みやすい。強制徴収や督促の強化は、視聴者にとって“税に似た非税”として不満を増幅する。給与体系や制作費の透明性も限定的で、公共性を支える説明責任は十分ではない。番組への不信感が高まるたび、「なぜ強制的に払わねばならないのか」という根源的疑問が再び噴き上がる。

ここで視野を広げれば、制度疲労は日本特有の問題ではない。英BBCは2028年に受信料を実質廃止し、一般財源化へ移行する方向で議論が進み、独ARD/ZDFは所得比例徴収に近い“世帯課金の一本化”で合意している。欧州主要国が“税化か所得比例か”という再設計に動く中、日本の“テレビ所有ベース”は世界標準からも取り残されつつある。

制度の限界がここまで露呈した以上、再設計は不可避だ。方向性としては、まず①徴収の基盤を「テレビ所有」から「サービス利用」へ切り替えること。次に②税方式に近い所得比例や免除制度を導入し、真の意味での“応能負担”を実現すること。加えて③独立した監査機関を設け、予算・番組の透明性を客観的に担保すること。そして④視聴者代表や市民委員会を常設し、番組の公平性を監視する制度を組み込むことが求められる。

受信料を税化するなら、税に匹敵する公平性・透明性・説明責任が不可欠。スクランブル化など任意契約へ移行するなら、番組の質と信頼で視聴者をつなぎ止める覚悟が必要だ。

結局のところ、NHKの制度は「徴収の強制力」と「番組の公平性」が対称であってこそ持続する。どちらかが欠けた瞬間、制度は脆く崩れる。今問われているのは、NHK自身がどこまで自己修正能力を発揮し、“公共とは何か”を再構築できるかである。税方式へ踏み出すのか、それとも任意契約へ舵を切るのか――その決断は、日本のメディア環境の未来を左右する分岐点となる。