病的要求回避(PDA)2025年09月28日

病的要求回避(PDA)
エリザベス・ニューソンは1960年代から、発達に特性のある子どもに対して、診断名にとらわれず、その子の実際の様子に応じた柔軟な支援を重視する考え方を提唱した。親との協力を大切にしながら、一人ひとりに合った支援を組み立てることを目指していた。彼女は「病的要求回避(PDA=Pathological Demand Avoidance)」という特徴的な行動パターンに注目し、概念として紹介したが、それを特定の診断名として固定することには慎重だった。

ニューソンを調べるきっかけは、知人が自分の子どもはPDAではないかと疑ったことにある。近年では、インターネットを通じて情報を集める保護者が増え、PDAの説明に子どもの様子が似ていると感じて、自己判断で「PDAかもしれない」と考えるケースがあるようだ。これは支援を求める切実な思いから生まれているが、この診断名にこだわることで、かえってASDの専門的な対応が受けにくくなる危険もある。

PDAは、現在の理解では自閉スペクトラム症(ASD)の一つの表現型とされている。ASD支援の基本は、環境の見える化(構造化)と、自発的なコミュニケーション手段の獲得であり、これはASDの特性の強弱や知的水準、年齢・性別に関係なく共通して必要とされる支援である。PDAという別の診断名を与えることで「ASDではない」と誤解されれば、支援の機会が遠のく可能性がある。

現在、PDAは国際的な診断基準には含まれておらず、イギリスでも医療ガイドラインでは診断名として推奨されていない。それにもかかわらず、一部の団体や支援者がPDAを独立した診断名として扱い、特別な支援を求める動きが広がっている。これは、ニューソンが本来大切にしていた「診断名に縛られず、実際の困りごとに向き合う支援」という考え方とは、まったく逆の方向に進んでしまっている。

また、1960年代からのニューソンの考え方は、後の1990年代半ばにイギリス自閉症協会(NAS)が整理した支援の枠組み「SPELL」にも通じる部分があるが、両者の間に制度的なつながりはなく、NASからニューソンへの言及もほとんど見られない。その結果、ニューソンの柔軟な支援の考え方は広く共有されることなく、1980年代に彼女が発表したPDAという言葉だけが一人歩きしてしまっている。

ニューソンの本来の立場は「診断名ではなく、子どもの実態に合わせた支援を考えること」であり、現在のようにPDAを診断名として扱う風潮は、彼女の考え方とは正反対である。支援はラベルではなく、目の前の子どもの様子と必要に応じて柔軟に組み立てるべきであり、ニューソンの思想を今の支援のあり方にどう生かすかが問われている。