ザ・ロイヤルファミリー ― 2025年11月04日
勝負もののドラマには、理屈抜きの胸の高鳴りがある。勝つか負けるか、その一点に人生のすべてが凝縮されるからだ。野球、将棋、ボクシング……舞台はいろいろあれど、競馬ほど人と動物の絆を描くにふさわしい勝負はないだろう。そんな競馬を真正面から扱ったドラマが、この秋のTBS日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』だ。主人公・栗須栄治(妻夫木聡)は、税理士として安定した人生を歩んでいたが、人生の歯車が狂った瞬間に、名馬主・山王耕造(佐藤浩市)と出会う。そこから彼の運命は一変。競走馬「ロイヤルホープ」との出会いを通じて、20年にわたる家族の再生と夢への再挑戦が始まる──有馬記念という“日本一の舞台”を目指して。
物語は原作・早見和真の同名小説。『イノセント・デイズ』で知られる早見が描くのは、血と汗、そして「血統」に宿る宿命の物語だ。企画を立ち上げたのはプロデューサー・加藤章一。競馬に縁のなかったという彼が、「血統の継承」という言葉に人間社会の縮図を見たという。JRAの全面協力で実際の競馬場・トレセン撮影を敢行したが、コロナ禍で一時頓挫。それでも企画は息をつなぎ、数年の熟成を経てようやくこの秋、放送が実現した。
キャストには、妻夫木と佐藤を筆頭に、目黒蓮、松本若菜、沢村一樹、黒木瞳、小泉孝太郎といった実力派が並ぶ。いずれも「勝負」と「誇り」を背負う人間たちを、それぞれの流儀で演じている。脚本は『桐島、部活やめるってよ』の喜安浩平。青春群像の機微を知り尽くした筆致が、競馬界という閉ざされた世界に新たな風を吹き込む。主題歌は玉置浩二の「ファンファーレ」。その一節がレース前の高鳴りを象徴するように響く。演出を担うのは塚原あゆ子。『Nのために』『アンナチュラル』『最愛』と、近年のTBSドラマ黄金期を支えた名手だ。俳優の即興性を生かしながら、感情の微細な揺れを緻密に捉える──そんな彼女の演出が、本作でも遺憾なく発揮されている。芸術選奨新人賞や日本アカデミー賞優秀監督賞に輝いた手腕は伊達ではない。
競馬という専門的な題材を、血の通った人間ドラマへと昇華させた『ザ・ロイヤルファミリー』は、決して“馬の話”にとどまらない。これは、夢に敗れた者がもう一度、人生のターフに立つ物語である。勝敗ではなく、「挑むこと」にこそ人は心を打たれる──そんな原点を思い出させてくれる、今季屈指の注目作だ。ドラマの優秀さゆえか、あるいは歳のせいか、自分でも驚くほど目頭が熱くなる。
物語は原作・早見和真の同名小説。『イノセント・デイズ』で知られる早見が描くのは、血と汗、そして「血統」に宿る宿命の物語だ。企画を立ち上げたのはプロデューサー・加藤章一。競馬に縁のなかったという彼が、「血統の継承」という言葉に人間社会の縮図を見たという。JRAの全面協力で実際の競馬場・トレセン撮影を敢行したが、コロナ禍で一時頓挫。それでも企画は息をつなぎ、数年の熟成を経てようやくこの秋、放送が実現した。
キャストには、妻夫木と佐藤を筆頭に、目黒蓮、松本若菜、沢村一樹、黒木瞳、小泉孝太郎といった実力派が並ぶ。いずれも「勝負」と「誇り」を背負う人間たちを、それぞれの流儀で演じている。脚本は『桐島、部活やめるってよ』の喜安浩平。青春群像の機微を知り尽くした筆致が、競馬界という閉ざされた世界に新たな風を吹き込む。主題歌は玉置浩二の「ファンファーレ」。その一節がレース前の高鳴りを象徴するように響く。演出を担うのは塚原あゆ子。『Nのために』『アンナチュラル』『最愛』と、近年のTBSドラマ黄金期を支えた名手だ。俳優の即興性を生かしながら、感情の微細な揺れを緻密に捉える──そんな彼女の演出が、本作でも遺憾なく発揮されている。芸術選奨新人賞や日本アカデミー賞優秀監督賞に輝いた手腕は伊達ではない。
競馬という専門的な題材を、血の通った人間ドラマへと昇華させた『ザ・ロイヤルファミリー』は、決して“馬の話”にとどまらない。これは、夢に敗れた者がもう一度、人生のターフに立つ物語である。勝敗ではなく、「挑むこと」にこそ人は心を打たれる──そんな原点を思い出させてくれる、今季屈指の注目作だ。ドラマの優秀さゆえか、あるいは歳のせいか、自分でも驚くほど目頭が熱くなる。