進む“経済の植民地化”2025年08月05日

進む“経済の植民地化”
「日本が10年で対米投資80兆円」。ニュースを見ても、ピンと来ない人は多い。だがこの話、他人事では済まされない。私たちの税金、企業の資金、そして国の主権にまで関わる話だからだ。政府と大手企業が足並みを揃えて進めるこの“80兆円プロジェクト”。内訳は、アメリカに毎年8兆円を注ぎ込むという計画。しかも問題なのは、その投資先を日本側が選べるわけではなく、多くの場合、アメリカ側の指定通り。撤退も簡単ではない。つまり、日本の企業はカネを出しても口を出せず、実質的には“おまかせ投資”を強いられているのだ。表向きの政府の説明は「関税が下がるから、日本企業にメリットがある」。だが、これもよく聞けば眉唾だ。実態は“得をする”というより、“損を少し減らす”だけの話。コスト削減の見返りに、膨大な資金を差し出す。これは、まともな取引ではない。

同じくアメリカと関税交渉を進めたEUの場合は、約88兆円の投資を自主的に選定できる立場にある。企業は投資先を自ら決め、状況が変われば撤退も可能。さらにEUには「ブロッキング規則」と呼ばれる強力な盾があり、アメリカの域外制裁に対抗できる法制度が整っている。要は、“アメリカの言いなりにはならない”仕組みを用意しているからだ。一方の日本はどうか。そうした対抗手段はなく、企業も政府も、アメリカの制裁措置や規制の前に沈黙するしかない。つまり、日本は資金だけを提供し、主導権も法的防御も持たないまま、アメリカ経済の「下請け」に甘んじているのが現実なのだ。

さらに深刻なのは、この巨額の対米投資について、石破内閣が国民にほとんど説明していないという点だ。石破首相はこれまで「正直な政治」を掲げ、安全保障と経済は切り離せないと繰り返してきた。だが、今回の80兆円にもおよぶ対米投資に関しては、その「正直さ」は影を潜め、説明責任を果たす姿勢すら見られない。とりわけ問題なのは、首相自らが「関税交渉の中身は国家間の機微に関わるため、つまびらかにはできない」と述べ、国民への説明を拒んだことである。確かに外交交渉には一定の非公開性が求められる局面もあるだろう。しかし、80兆円という巨額の資金が長期にわたって米国に流れ、国内企業の経済行動に重大な影響を及ぼすにもかかわらず、その内容を「非公開」の一言で済ませるのは、極めて不当である。これは民主主義の根幹である説明責任を真っ向から否定する姿勢に他ならない。

この構造は、単なる経済政策の問題にとどまらない。それは、日本という国家の主権のあり方、そして政治と国民の関係そのものを問う、民主主義の重大な課題である。投資の自由も、情報へのアクセスも、選挙による信任も蔑ろにされたまま、国民は既成事実だけを突きつけられている。このままでは、日本は資本も制度も主導権もアメリカに握られた“経済の属国”へと堕ちていくだろう。主権国家としての独立を守るには、企業が自由に投資先を選べる仕組みが整っていなければならず、政府は政策の根拠を率直に説明し、国民はその内容を監視・評価できる体制が必要不可欠である。かつて明治の日本は、不平等条約に抗い、交渉と外交の積み重ねで主権を取り戻した。今また、日本は経済的な独立を守る覚悟を問われている。だが、選挙で支持を失ってもなお政権に居座り、重大な政策決定すら国民に知らせようとしない石破首相にその責任が果たせるはずがない。