子育て まち育て 石見銀山物語2025年04月01日

石見銀山物語
教室監視カメラ導入の是非について、「希望と信頼のあるところに教育は醸成する」と書いたものの、ずっとモヤモヤしていた。たまたまこのドキュメンタリー番組を見て気持ちが晴れた。『子育て まち育て 石見銀山物語』は、世界遺産・石見銀山を抱える島根県大田市大森町を舞台に、かつて世界屈指の銀山の下町だったこの地域が、閉山後に限界集落へと衰退したものの、地域全体で子どもを育て、町を活性化させる取り組みを描いたNHKのドキュメンタリー番組である。番組では、四季折々の町の風景とともに、移住者や地元住民約400人が協力しながら子育てを行う姿が映し出される。本作は2022年から2023年にかけて春・夏・秋・冬の4回にわたって放送され、2023年1月には全話一挙再放送も実施。その後、2024年6月には特別編が放送され、2025年2月に再放送された。特別編では、大森町がどのようにして過疎地域から子どもの笑顔あふれる町へと変化したのかが改めて紹介された。制作にあたり、制作者が具体的に何からインスピレーションを受けたかは明言されていないが、大森町での地域ぐるみの子育てや移住支援、仕事と生活の一体化などの情報が影響を与えたと考えられる。例えば、町の活性化に関する書籍『過疎再生 奇跡を起こすまちづくり』(松場登美著)では、大森町の事例を通じて地方創生の可能性が示されており、本番組の背景とも共鳴する内容となっている。『子育て まち育て 石見銀山物語』は、地域コミュニティの力や移住者と地元住民の協働による町おこしの成功例を広く伝え、多くの視聴者に感動を与えた作品だ。

圧巻は、たった一人で小学校を卒業していく男子が答辞でお礼を述べる際、集落の人々への感謝を語りながら涙ぐむシーンだ。全校20数人の児童たちは、低学年までもらい泣きをする。帰り道では、集落の人たちが皆「おめでとう」と声をかけ、「泣かんかったか?」「泣いてしまいました」と正直に語るシーンも温かい。こんな地域の学校には、監視カメラは必要がない。「学校づくりは地域づくり」。かつて与謝の海養護学校の初代校長となった青木嗣夫氏の言葉を思い出す。この言葉は、障害児のための地域づくりを念頭に置いたものだが、大切なのは、教育と地域づくりは切り離してはならないという思想だ。確かに、小さな集落の学校だからといって、いじめや体罰がまったくないとは言えない。しかし、地域全体が文字通り子どもを見守り、学校を支えていれば、深刻な事態は避けられる。もちろん、その反面、集落の同調圧力は強いのかもしれないが、大森町に志を持って移り住む若い世代が、それを柔らかなものに変えていく可能性も感じる。コンビニはないが、持ち寄りの食事会がメンバーを変えて家々で開かれ、僻地のプロパンガス代は都会の3倍の値段だが、地域はさらに温かい。新入生は昨年度8名に増え、保育所の園児数も一桁増えた。その理由は、大森町の人的環境にあるのだろう。自分も子育て時代、「親子共育ち」として民間学童保育を支援してきたが、地域づくりには足がかりがなかった。大森町の幸運は、2つの中規模企業が集落への貢献も意識して存続していること、そして2007年に石見銀山が世界遺産に登録され、町ぐるみで穏やかな街を目指す地域づくりの経験を積んできたことだ。どこの地域でも同じ条件があるとはいえないが、地域の絆を深めるための努力が、子どもを育てる環境をつくるのだと言える。

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