米国USスチール買収2025年06月15日

米国USスチール買収
日本製鉄は、米国鉄鋼大手USスチールの全株式を取得する買収計画が、米政府との「国家安全保障協定」に基づき承認されたと発表した。これにより、日本製鉄の先端技術を米国市場に展開し、日米両国の鉄鋼業が連携して国際競争力を高める体制が整った。背景には、中国の過剰生産と安価な鋼材輸出による市場の混乱がある。こうした圧力に対抗するには、「日米連合」による協力体制の構築が不可欠だった。もっとも、買収の過程は平坦ではなかった。全米鉄鋼労働組合(USW)の強い反発により、政治問題化する場面もあったが、最終的に米政府がUSスチールの重要事項に拒否権を持つ「黄金株」を保有することで妥結に至った。加えて、日本製鉄はUSスチールの取締役の過半数および経営陣の中枢を米国籍とする方針を示し、米側の安全保障上の懸念にも配慮している。

現在、米国市場では高関税政策により中国鋼材の流入が制限されている一方で、EV向け電磁鋼板などの高付加価値分野で需要が拡大している。日本製鉄が有する高度な技術力は、こうした分野で優位性を発揮する可能性が高い。だが、中国勢が世界市場で圧倒的なシェアを握る現状では、単に量で競うのではなく、「質」で勝負する姿勢が重要となる。日米が安全保障・通商・技術の各分野で連携し、持続可能な産業構造を共に築くことが今後のカギを握る。この買収は、日本国内にも複数の利点をもたらす。第一に、米国市場での技術展開により国内の研究開発の価値が高まり、継続的な技術投資が見込まれる。第二に、生産拠点の海外分散により、為替変動や地政学的リスクへの耐性が向上する。第三に、USスチールの原料調達ネットワークを活用することで、国内拠点の供給の多様化と安定化も期待される。かつて日本は、中国に鉄鋼技術を供与し、その成長を後押ししたが、結果的に強大な競争相手を育ててしまった。この過去の失敗は、技術協力を善意だけで進める危うさを示している。今後は、リスクと利益を見極めた長期的視野に立った連携が求められる。

そして、ここで改めて強調すべきは、グローバル化の功罪である。グローバル化は、国境を越えた自由な経済活動が富と民主主義をもたらすという理想を掲げてきた。しかし現実には、ルール無視の国家資本主義や覇権主義がその理念を食い破り、不公平な競争や安全保障上の脅威を生み出してきた。鉄鋼をはじめとする基幹産業が無秩序な競争にさらされることで、国家の経済的自立や雇用が損なわれる現象が各地で見られる。こうした状況下で、自由貿易の恩恵だけを享受する時代は終わりつつある。USスチールの買収は、日米が「開かれたグローバル化」の限界を認識し、価値観とルールを共有する経済圏として連携する試みの一環である。量ではなく質、短期利益ではなく長期的な信頼。それを軸に据えた戦略こそが、これからの国際競争における持続的な優位性を築く土台となる。