中学校で水泳授業廃止広がる2025年06月30日

中学校で水泳授業廃止広がる
近年、公立中学校で水泳の実技授業を廃止する動きが広がっている。背景にはプール施設の老朽化、改修・維持費の高騰、教員の負担増、さらには猛暑による熱中症リスクといった複合的要因がある。中でも小中規模自治体では「実施困難」と判断し、座学への切り替えを進める行政が増加。愛知県大府市や岩手県滝沢市ではすでに実技を廃止した。こうした動きに対し、日本水泳連盟は「水難事故の防止には実技が不可欠」として、授業継続を求める提言書を文部科学省に提出。スポーツ庁も「命を守る力を育む」として実技の必要性を強調している。一方で、京都市のように民間スイミングスクールへの委託で指導の質とコスト削減を両立させた好事例もあり、保護者や教員から高い評価を得ている。岡山県倉敷市ではプールの共同利用と予防改修によって長期的コスト圧縮に成功。専門家は「廃止ありきではなく、工夫による継続を」と提起する。

問題は費用と責任の所在だけではない。水泳授業における事故は命に直結することから、学校現場では「万一」に備えたくないという思いもあるのが実情だろう。だが、水泳指導はすでに50年以上学校教育に組み込まれてきた歴史がある。当時の教員に特別な水泳技術があったわけではない。それでも多くの子どもたちは、水に慣れ親しむ中で自ら泳げるようになっていた。2018年の全国調査では、20歳以上の日本人の約18%が「泳げない」と回答しており、裏を返せば8割以上が学校で泳げるようになったということだ。加えて、科学的な指導法を用いれば9割以上が25m以上泳げるようになるという研究もある。呼吸・姿勢・動作を段階的に習得し、水の特性を活かしたカリキュラムを通じて、現代のスイミングスクールでは数回の集中指導でも成果を上げている。

だがその流れに冷や水を浴びせたのが、コロナ禍以降の水泳授業中断と施設環境の悪化である。2023年には小学校6年生の約半数が25mを泳げないと報告され、2000年代の20〜25%、2010年頃の30%前後から急増。男子で45.7%、女子では53.8%という驚くべき水準に達した。中学生でも泳力の低下が目立ち、「泳げない」ことが再び一般化しつつある。泳げないことは単なる体育技能の問題ではない。水難事故では、生存の分かれ目にもなる。OECD加盟国での2024年調査によると、泳げない人の割合はOECD平均で25%、ドイツで9%、アメリカで17%、そして日本は38%。北欧ではスウェーデンがわずか5%と水準が突出して低い。これらは、学校教育における水泳指導の有無と質が大きく影響していることを物語っている。「予算がない」「事故のリスクが怖い」といった理由で現場が萎縮するのは理解できる。だが、それでも子どもたちの「命を守る教育」は、後回しにすべきではない。水泳を通じた生涯安全教育は国民にとって必要なものだ。