パーキンソン病iPS細胞治療2025年04月20日

パーキンソン病
パーキンソン病は、脳内のドーパミン神経細胞が減少することで運動障害を引き起こす難病であり、根本的な治療法は存在しない。京都大学は、健康なドナー由来のiPS細胞から作製したドーパミン神経前駆細胞を、患者の脳内に移植する臨床試験(治験)を実施した。対象は50~69歳の患者7名で、1人あたり500万~1000万個の細胞を被殻に移植した。主要評価項目は安全性であり、24カ月間の観察期間中、重篤な副作用や腫瘍化、異常増殖は認められなかった。移植後は1年間免疫抑制剤を使用し、その後も大きな拒絶反応は確認されていない。運動症状の評価では、6名中4名に改善が見られ、PET検査でもドーパミン神経の活動増加が確認された。特に若年で重症度の低い患者において、効果が高い傾向が示されている。今後は、細胞製造企業が厚生労働省への承認申請を予定している。他人由来の細胞を使用するため、免疫抑制剤の継続使用が課題ではあるものの、安全性と有効性が確認され、新たな治療選択肢となる可能性がある。この治療は、失われた神経細胞を補う再生医療の最前線を示すものである。

脳内移植治療が現実となった今、「神経伝達物質が不足しているなら健康な脳細胞を移植すればよい。他人の脳細胞を移植するのが困難なら、他人の健康な細胞から脳細胞を培養すればよい」という理屈通りの治療が実現した。今後、脳細胞の障害部位が特定されれば、他の疾患への応用も可能になるかもしれない。今回は、運動障害とドーパミン不足の関連が明確なパーキンソン病が対象であったが、同じくドーパミン関連とされる統合失調症、ADHD、うつ病、強迫性障害などへの応用も期待される。さらには、薬物やギャンブル依存もドーパミンが関与していると言われこうした社会的問題に対しても、効果があれば、当事者やその家族を救う手段となるだろう。

ただし、運動障害と行動障害では根本的な性質が異なる。行動は人格と不可分な側面があり、人格を人為的に変容させてよいのかという倫理的問題が生じる。仮に治療が可能であったとしても、誰がその適応を判断するのかといった点で大きな議論を呼ぶことになるだろう。脳内移植による再生医療は、今後どこまで認められていくのだろうか。脳も臓器の一部である以上、再生が可能と認めてよいのか。あるいは、生まれつきの性質まで変えることを再生と言えるのか。考え出すと堂々巡りになる。とはいえ、まずはパーキンソン病など運動障害に対する治療の成功を心から祝福したい。
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