日産大規模リストラ発表2025年05月13日

日産大規模リストラ発表
日産自動車が2025年3月期に発表した業績は、業界に大きな衝撃を与えた。純損益は6708億円の赤字で、前期の4266億円の黒字から一転。この事態を受け、日産は全従業員の約15%にあたる2万人の人員削減と、世界17カ所の車両工場を10カ所に縮小する計画を示した。今回の赤字は同社史上3番目の規模であり、さらに通期赤字は最大7500億円に拡大する見込みである。販売台数の減少により人員・生産能力が過剰となり、収益確保が極めて困難な状況だ。国内では、数百人規模で主に事務系職種を対象とした早期退職制度の導入が見込まれている。

しかし、日本全体が人手不足に直面するなか、有能な人材の流出は日産の技術やノウハウを競合他社に渡すリスクを高める。短期的なコスト削減を目的とした人員整理は、中長期的には企業価値の毀損につながりかねない。必要なのは人員削減ではなく、成長分野への人材移行である。たとえばEVバッテリーの生産拠点や次世代モビリティ関連事業への配置転換は、地域経済の活性化にもつながる。しかし、日産は経営不振や初期投資の高さから国内での新規展開に慎重な姿勢を崩していない。過去の大規模リストラも一時しのぎに終わった事実を忘れてはならない。リストラは士気を低下させ、開発意欲を奪う。

こうした状況では、経済産業省の積極的な支援が欠かせない。同省はバッテリー産業を国家戦略と位置づけ、助成金や人材育成を進めてきたが、政策は限定的だった。今後は撤退・縮小された投資の再活用や、成長分野への人材再配置を促す政策が必要である。工場や設備は再建できても、熟練人材を取り戻すには膨大なコストと時間がかかる。人材育成は長年の積み重ねであり、競争力の源泉でもある。日産の国内における内部留保は約4.3兆円に上る。その1割を活用すれば、従業員1000人の給与を3年間維持するための約3000億円は十分に賄える。もちろん内部留保は将来の投資や財務安定のために必要だが、人材維持を「未来への投資」と捉えれば、長期的な競争力の確保にもつながる。

短期的なリストラは一時的な財務指標を改善するかもしれないが、企業の成長エンジンを弱めるリスクがある。今求められるのは、人材の流出を防ぎ、再教育と再配置を支援する戦略的な投資である。企業も国家も「人」を切り捨てるのではなく、「人」を活かす方向へと転換すべき時が来ている。今ある人材をどう守り、どう未来に活かすか――その答えが日産の今後、さらには日本の産業の命運を左右するだろう。
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