財政破綻を懸念??2025年05月10日

政府の総負債が1323兆7155億円
財務省は2024年度末時点で、日本政府の総負債が1323兆7155億円に達し、前年より26兆円以上増加したと発表した。これは9年連続で過去最大を更新している。物価高対策などで歳出が膨らむ一方、税収では補えず、借金が拡大しているとの説明である。しかし、こうした報道にはいつも違和感が残る。というのも、財務省や多くのメディアが発信する「借金」には、政府が保有する資産が一切含まれていないからだ。これは企業会計では考えにくい。たとえば、トヨタの負債が54兆円であっても、資産が同程度あるため倒産リスクは問題にならない。日本政府も同様であり、財政を正しく評価するには、総債務(グロス)だけでなく、資産を差し引いた実質債務(ネット)で見る必要がある。

今回発表された1323兆円はグロス債務であり、国債や借入金などをすべて合計したものだ。これに対しネット債務とは、政府が保有する現金、預金、出資金、日銀が保有する国債などを差し引いた残高を指す。現在のネット債務は約544兆円とされており、グロスよりはるかに小さい。とくに注目すべきは、日本銀行が保有する国債の存在である。日銀は現在、約580兆円の国債を保有しており、これは一見、政府の借金としてカウントされている。しかし実態としては、日銀は政府の子会社に等しく、その保有国債の元本返済も利払いも、最終的に政府に還元される構造にある。よってこれらの債務は、市場から借りているものとは異なり、実質的な返済負担はないに等しい。

さらに、現在のインフレ率は2〜3%程度で推移しており、インフレは名目債務の実質的価値を減じる効果がある。たとえば500兆円規模の債務であれば、年2%のインフレにより年間約10兆円の実質負担が軽減される。また、長期金利が1%程度と低水準にとどまっていることで、政府は極めて低コストで資金調達が可能である。こうした状況を踏まえると、日本の財政は、表面的な数字ほど深刻な状況にはない。日銀保有分を除いたネット債務は、依然として管理可能な水準にあり、加えてインフレと低金利の環境が続く限り、実質的な返済負担は抑制される。財政破綻を懸念する声は根強いが、現時点においてそのリスクは極めて低い。それにもかかわらず、政府が「借金総額」のみを強調して発表すると、多くのメディアはその内訳や背景を解説することなく、大々的に報じる傾向にある。そして、そうした報道は、毎度のように増税議論へと結びついていく。これは、危機を煽りつつ政策誘導を図る、いわばマッチポンプ的な構図と言える。こうした一方的な情報の流布が続く限り、健全な財政議論の形成は難しい。報道には数字の意味を冷静に読み解く視点が求められている。

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