年金「底上げ」法通過 ― 2025年06月02日
基礎年金を底上げするための年金制度改革法案。その修正案が、自民・公明・立憲民主の3党によって、あっという間に衆議院を通過した。スピード重視で国会会期中の成立を優先した結果、肝心の財源問題などは先送りされたままだ。立憲民主党は与野党で話し合う場を設けるよう求めたが、石破首相は応じなかった。与党も野党第一党も、夏の参院選をにらみながら、政治的な思惑を優先して採決を急いだというのが実情だろう。自民党としては、やっかいな年金問題を選挙の争点から外したい。一方の立憲民主党は、政府案に自らの主張を取り込ませることで、「成果」をアピールしたい。そんな両者の利害が一致した結果のスピード採決だった。3党の協議では、厚生年金の積立金を使うという点で折り合ったものの、制度全体のあり方や、今後の財源をどうするかといった根本的な議論は深まらないまま。野党の一部は採決の強行に抗議し、自民党の河野太郎前デジタル相も「議論が足りない」として採決前に退席した。一方、世間の空気はというと、ちょうど「コメ騒動」まっただ中。小泉農水相が持ち出した米政策に世論が振り回され、年金への関心はすっかりかき消されてしまった。政治的には「絶好のタイミング」だったのかもしれない。そんな状況の中で、重要法案がひっそりと、するりと通ってしまった。
そもそも基礎年金は、2005年にマクロ経済スライドという仕組みを導入し、人口動態や物価の変化に応じて自動的に調整される制度になった。納める人が減れば給付も減る――そんなことは最初から分かっていたのに、小泉首相は「100年安心」と言い切り、あたかも問題は解決したかのように振る舞った。ところが、やはり現実はそう甘くない。2010年代になると財源不足が深刻になり、野田政権は政府が基礎年金の半分を負担すると決め、その財源を確保するために消費税を倍にした。そして今回。将来、月7万円だった基礎年金が5万円に減るかもしれないという見通しのもと、厚生年金の積立金を使って、その目減りを防ごうというのが、今回の底上げ法案である。「年金が減るのなら、積立金を使って食い止めるべきじゃないか」という声はもっともらしく聞こえる。だが、ことはそう単純ではない。今回の法案には「4年後までに検討する」という文言があるだけで、積立金を本当に使うかどうかすら明言されていない。その後どうするかは、まるで未定だ。
議員たちは口をつぐんでいるが、おそらく誰もが心のどこかで「このままでは足りない」と思っている。だからこそ、次の一手として、専業主婦にも年金保険料を納めてもらうか、あるいはまた増税するか、という議論が控えていることは想像に難くない。他党の議員たちは「そんな大事なことを国会で議論せず、選挙目当てで底上げだけ決めるなんて」と批判する。確かにその通りだろう。自民、公明、立民という3党の「協調」は、選挙後の増税路線をにらんだ布石でもあるのかもしれない。その一方で、国民の関心は、コメの価格にばかり向いている。減税の議論も、年金制度の将来も、今やかき消されてしまった。もちろん、メディアの責任は大きい。でも、そんな報道に振り回されるばかりの姿を「それが日本のレベル」と言われたら、悔しいけれど返す言葉がない。
そもそも基礎年金は、2005年にマクロ経済スライドという仕組みを導入し、人口動態や物価の変化に応じて自動的に調整される制度になった。納める人が減れば給付も減る――そんなことは最初から分かっていたのに、小泉首相は「100年安心」と言い切り、あたかも問題は解決したかのように振る舞った。ところが、やはり現実はそう甘くない。2010年代になると財源不足が深刻になり、野田政権は政府が基礎年金の半分を負担すると決め、その財源を確保するために消費税を倍にした。そして今回。将来、月7万円だった基礎年金が5万円に減るかもしれないという見通しのもと、厚生年金の積立金を使って、その目減りを防ごうというのが、今回の底上げ法案である。「年金が減るのなら、積立金を使って食い止めるべきじゃないか」という声はもっともらしく聞こえる。だが、ことはそう単純ではない。今回の法案には「4年後までに検討する」という文言があるだけで、積立金を本当に使うかどうかすら明言されていない。その後どうするかは、まるで未定だ。
議員たちは口をつぐんでいるが、おそらく誰もが心のどこかで「このままでは足りない」と思っている。だからこそ、次の一手として、専業主婦にも年金保険料を納めてもらうか、あるいはまた増税するか、という議論が控えていることは想像に難くない。他党の議員たちは「そんな大事なことを国会で議論せず、選挙目当てで底上げだけ決めるなんて」と批判する。確かにその通りだろう。自民、公明、立民という3党の「協調」は、選挙後の増税路線をにらんだ布石でもあるのかもしれない。その一方で、国民の関心は、コメの価格にばかり向いている。減税の議論も、年金制度の将来も、今やかき消されてしまった。もちろん、メディアの責任は大きい。でも、そんな報道に振り回されるばかりの姿を「それが日本のレベル」と言われたら、悔しいけれど返す言葉がない。