35年目のラブレター ― 2025年03月20日

久しぶりに、上映中に観客のすすり泣く声が聞こえた映画だった。今日は祝日ということもあり、そこそこの込み具合だった。戦時中に生まれ、十分な教育を受けられず文字の読み書きができない65歳の西畑保(鶴瓶、重岡大毅)は、貧しい家庭に育ち、生きづらさを抱えてきた。運命的に出会った皎子(原田知世、上白石萌音)と結婚するが、文字が読めないことを隠していた。半年後、事実が明らかになり別れを覚悟するが、皎子は「私があなたの手になる」と支え続けることを誓う。彼女への感謝を込めたラブレターを書きたいと願った保は、定年後に夜間中学に通い始め、学ぶ決意をする。『35年目のラブレター』は、西畑保が実際に体験した出来事に基づいている。西畑氏は2003年、住友信託銀行主催の「60歳のラブレター」に応募し、金賞を受賞した。そのエピソードはテレビ番組『ザ!世界仰天ニュース』でも取り上げられ、司会者の笑福亭鶴瓶が感銘を受ける。鶴瓶の弟子である笑福亭鉄瓶がこれを基に創作したノンフィクション落語『生きた先に』が披露され、その記事を目にした毎日新聞論説委員の小倉孝保が西畑夫妻に取材を開始。夫妻の深い絆や感謝の思いを描いた物語として2024年に執筆し映画化された。主人公は戦後の貧困から公教育を受けられず、読み書きができなかったというストーリーだ。映画では、夜間中学校での多様な人との学びの楽しさが描かれるが、主人公の学びの困難さには深く切り込んではいない。
主人公は「誰でもやればできる」という答辞を昼間・夜間中学校の合同卒業式で語るが、やや違和感を覚えた。この作品を監修する読み書き障害の専門家がいなかったのだろう。主人公はディスレクシアであると思われる。実話でも、主人公は7年かかって読み書きを獲得し、ラブレターを書き上げたとされるが、映画での文字の練習場面は、マスの中に何度も字を書き続けるドリル学習ばかりだ。もちろん40年前の教育界には、読み書き障害の知見や指導法がなく、「良い指導者」は根気強くドリル学習に付き合う教員だった。今なら、7年間もディスレクシア者に書字のドリル指導を繰り返す指導者はあり得ない。7年かかっても読み書きを獲得したことは事実なのだから、ケチをつけるなという意見もあるかもしれない。しかし、話が感動的であればあるほど、「感動ポルノ」という言葉が頭をよぎってしまう。とはいえ、原田知世の演技は美しかったし、結婚当時を演じた重岡大毅と上白石萌音も見事な演技を見せた。この手の作品では、関西アクセントが不自然だと作品そのものが台無しになるが、原田と上白石は関西アクセントをかなり練習したことがうかがえる。良い映画であったことは間違いない。
主人公は「誰でもやればできる」という答辞を昼間・夜間中学校の合同卒業式で語るが、やや違和感を覚えた。この作品を監修する読み書き障害の専門家がいなかったのだろう。主人公はディスレクシアであると思われる。実話でも、主人公は7年かかって読み書きを獲得し、ラブレターを書き上げたとされるが、映画での文字の練習場面は、マスの中に何度も字を書き続けるドリル学習ばかりだ。もちろん40年前の教育界には、読み書き障害の知見や指導法がなく、「良い指導者」は根気強くドリル学習に付き合う教員だった。今なら、7年間もディスレクシア者に書字のドリル指導を繰り返す指導者はあり得ない。7年かかっても読み書きを獲得したことは事実なのだから、ケチをつけるなという意見もあるかもしれない。しかし、話が感動的であればあるほど、「感動ポルノ」という言葉が頭をよぎってしまう。とはいえ、原田知世の演技は美しかったし、結婚当時を演じた重岡大毅と上白石萌音も見事な演技を見せた。この手の作品では、関西アクセントが不自然だと作品そのものが台無しになるが、原田と上白石は関西アクセントをかなり練習したことがうかがえる。良い映画であったことは間違いない。