備蓄米2000円の波紋 ― 2025年05月28日
コメ価格の高騰が続く中、小泉農林水産大臣の“即断即決”が注目を集めている。衆議院農林水産委員会(5月28日)で、備蓄米を5キロ2000円台で市場に出すという方針を問われ、「両方を買って食べ比べたい」と答えた姿勢は、柔らかさの中に自信をにじませたものだった。だが、その背後にある構造的問題まで視野に入れると、話はそう単純ではない。質問を投げかけた立憲民主党の石川議員は、安価な備蓄米と高価な一般米が並ぶことで、消費者が安い方に流れ、通常の米の買い控えが起きる懸念を提示した。これに対し、小泉大臣は「流通のスピードが価格安定に寄与する」とし、買い控えすら「前向きな行動の変化」と位置付けた。さらに、「2000円の米が出たあとに1800円の米が続けば、安定供給が可能だ」と強調した。確かに、価格は消費者にとって最もわかりやすい判断基準だ。しかし、問題の本質は価格よりも「量」、つまり供給の安定性にある。コメはバーゲンセールの目玉商品ではない。日常的に消費される生活必需品だ。だが、全体の供給量の動きに注目する報道は少ない。
今回市場に放出された備蓄米は21万トン。これは国内の年間消費量の約3%、月間ベースでは約30%に過ぎない。さらに今後出荷されるのは10万トンと、その半分。残る備蓄米はおよそ60万トン。計算上、国内の約1か月分の消費量しかない。この限られた量では「無制限放出」と言われても、持続性には疑問符がつく。しかも今年のコメの作付は670万トンと昨年と変わらず、全くコメ不足の反省のない作付けとなっている。加えて、業界側も事情を熟知している。安価な備蓄米が市場に出ても、それに合わせて高値で仕入れた在庫を“損切り”して値下げすることは考えにくい。彼らは備蓄米が売り切れ、在庫が尽きるのを待って価格維持を図るだろう。いわば、買い手と売り手の静かな攻防が始まっているのだ。
だが、問題は本当に流通や業界側の姿勢にあるのだろうか。本質的な原因は、戦後から今日まで続く農政の構造的な歪みにある。農地改革で地主から小作へ土地が移り、小規模自作農が全国に誕生した。当初は社会主義的理念のもとに行われた改革だったが、結果として彼らは保守化し、新たな地主層となった。これを「共産主義の防波堤」と見なしたGHQは、農地解放を徹底的に推進した。そして1960年代。池田勇人首相のもと、自民党は農地法を強化し、農村票を確保して「一強体制」への基盤を築いた。他党が入り込めない構造が生まれ、農業は自民党の政治基盤と不可分となる。
その結果、日本の農業は大規模化も進まず、効率性も上がらず、農地と水利権は既得権化し、閉鎖性を強めたまま現在に至っている。減反政策を進めるためには税金を投入するが、農業を守る政府投資は他国と比べて極端に少なく、根本的な改革はなお遠い。もし小泉大臣が、今回の備蓄米政策を単なる人気取りで終わらせたくないのであれば、避けて通れない課題がある。農地法の見直し、水利権の公平化、農業の構造改革。価格の一時的な安定だけでなく、コメの「持続可能な供給」を目指すならば、そこにこそ切り込むべきだ。
今回市場に放出された備蓄米は21万トン。これは国内の年間消費量の約3%、月間ベースでは約30%に過ぎない。さらに今後出荷されるのは10万トンと、その半分。残る備蓄米はおよそ60万トン。計算上、国内の約1か月分の消費量しかない。この限られた量では「無制限放出」と言われても、持続性には疑問符がつく。しかも今年のコメの作付は670万トンと昨年と変わらず、全くコメ不足の反省のない作付けとなっている。加えて、業界側も事情を熟知している。安価な備蓄米が市場に出ても、それに合わせて高値で仕入れた在庫を“損切り”して値下げすることは考えにくい。彼らは備蓄米が売り切れ、在庫が尽きるのを待って価格維持を図るだろう。いわば、買い手と売り手の静かな攻防が始まっているのだ。
だが、問題は本当に流通や業界側の姿勢にあるのだろうか。本質的な原因は、戦後から今日まで続く農政の構造的な歪みにある。農地改革で地主から小作へ土地が移り、小規模自作農が全国に誕生した。当初は社会主義的理念のもとに行われた改革だったが、結果として彼らは保守化し、新たな地主層となった。これを「共産主義の防波堤」と見なしたGHQは、農地解放を徹底的に推進した。そして1960年代。池田勇人首相のもと、自民党は農地法を強化し、農村票を確保して「一強体制」への基盤を築いた。他党が入り込めない構造が生まれ、農業は自民党の政治基盤と不可分となる。
その結果、日本の農業は大規模化も進まず、効率性も上がらず、農地と水利権は既得権化し、閉鎖性を強めたまま現在に至っている。減反政策を進めるためには税金を投入するが、農業を守る政府投資は他国と比べて極端に少なく、根本的な改革はなお遠い。もし小泉大臣が、今回の備蓄米政策を単なる人気取りで終わらせたくないのであれば、避けて通れない課題がある。農地法の見直し、水利権の公平化、農業の構造改革。価格の一時的な安定だけでなく、コメの「持続可能な供給」を目指すならば、そこにこそ切り込むべきだ。