ある晴れた夏の朝2024年08月10日

小説「ある晴れた夏の朝(小手鞠るい2018)」は、米国の高校生8人が原爆投下の肯定派と否定派の2組に分かれて討論会を開いた話。真珠湾攻撃、日中戦争、日系人部隊、ナチスによるユダヤ人弾圧、人種差別…議論は広がり、深まっていく。しかも過去の断罪にとどまらず、現在も各地で続く紛争にも話が及ぶ。被爆国日本の目線で書かれた戦争の本は多くあるが、アメリカの高校生たちに戦争を語らせるというのは、様々な人種の人たちが共に暮らす異民族国家、アメリカの地で書き続けている小手鞠るいさんならではの本だ。政治信条の違うの者同士が、お互いの意見をじっくり聞くこともなく罵倒しあうメディアやSNSにうんざりさせられている自分には一服の清涼剤だった。中高生向けに書かれた小説なのですぐに読めてしまうのも良い。南京事件や大東亜戦争に至る話は正確さに欠くが、重要なことは原爆投下が必要悪か不必要なのかという本質論から高校生たちがぶれないで討論していることだ。

「もしも日本にふたたび原爆を落とそうとする国家が現れたら、それをストップできるのは、アメリカでしかないわけでしょう。核兵器は平和の実現に、ひと役もふた役も買っている。否定派はそのことをもう少しだけ、認識するべきだと思うのです」という現実的な視点も堂々と述べる。もう一方で「わたしたち人類は、もう二度と同じあやまちを犯してはいけない、と、この慰霊碑は語っているのです。原爆投下は、アメリカの犯した罪ではない。人類の罪だと言っているのです」「原爆とガス室。ふたつの行為は、どちらもまちがったものであった。どちらも憎むべき悪であった。どちらも、醜い人種差別の行き着く先にあるものだった」と起きたことへの正しい評価を繰り返す中で、高校生と聴衆らは一つの結論へと進んでいく。議論とはかくあるべきと思った一冊であった。
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