消費税と「失われた30年」2025年06月12日

消費税と「失われた30年」
昨日は、財源は税だけに限られないことを述べ、国債発行が国民の資産となる仕組みや、中央銀行の役割について説明した。そして、国債を「国の借金」としか捉えられない政治家たちの思考停止についても指摘した。今回は、そうした政治家が金科玉条のように扱う消費税と「失われた30年」について述べる。消費税は1989年に3%で導入され、その後、1997年に5%、2014年に8%、そして2019年10月には10%へと段階的に引き上げられてきた。この税は所得や利益ではなく、消費に対して課されるため、景気の影響を受けにくく、政府にとっては安定した税収源であるとされている。

しかし一方で、景気が悪化しても国民の負担が変わらず、消費意欲を冷え込ませるという重大な欠点がある。特に、経済が低迷している時期には同じ税率であっても、所得が上がらない家計への圧迫が強まり、結果として景気回復の妨げとなる。実際に、1997年に消費税が3%から5%に引き上げられた際、日本の実質GDP成長率は-1.1%となり、景気が急速に悪化した。2014年に5%から8%へ引き上げられた際も、実質GDP成長率は-0.9%となり、個人消費の落ち込みが顕著だった。さらに、2019年10月の8%から10%への引き上げ時には、その年の実質GDP成長率がわずか0.3%にとどまり、特に直後の2019年10〜12月期には個人消費が前期比-2.8%と大幅に減少した。これらのデータは、消費税増税が明らかに経済の重荷となっていることを示している。

本来、税制は景気の状況に応じて柔軟に運用されるべきであり、特に消費税はその性質上「景気調整」の役割を果たすべきであった。しかし、実際には消費税は硬直的に運用されており、むしろ経済の停滞を招いている。先進資本主義国家では、景気が悪化した際には減税や政府支出の拡大によって経済を刺激し、景気が過熱すれば増税や引き締め政策で調整するのが基本である。これを「景気調整」と呼ぶ。ところが、日本では消費税の運用が政治的・制度的に固定されており、景気の波に応じた調整がほとんどなされていない。さらに、消費税が「福祉財源」として法的に位置づけられたことで、税制全体の柔軟性が失われ、結果として政策運営の自由度が狭められてしまった。これは、日本の経済政策において極めて大きな誤りである。

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により日本経済は大きな打撃を受けた。政府は約100兆円の財政支出を行い、1人あたり10万円の特別給付金、企業や医療機関への支援などを実施し、景気の下支えを図った。この政策の結果、2020年度の実質GDP成長率は-4.6%と大きな落ち込みを見せたが、2021年度には2.3%、2022年度は1.6%、2023年度には1.9%と回復傾向を示した。つまり景気の悪い時の政府の資本投下が景気を回復させたといえる。しかし、これらの回復は一時的な財政支出の効果によるものであり、根本的な消費回復にはつながっていない。消費税が国民の購買力を抑え続けている限り、日本経済の成長力が本格的に高まることは難しい。消費税は確かに財政を支える重要な税制ではあるが、それが経済の回復や成長を妨げる「足かせ」となっている現実を無視することはできない。

一方、ヨーロッパの一部の国々では、景気悪化時に消費税を一時的に引き下げる柔軟な政策が実施されている。たとえば、ドイツでは2020年にコロナ対策として付加価値税(日本の消費税に相当)を一時的に引き下げ、個人消費の回復を促進した。これに対し、日本では消費税の弾力的な運用がほとんど見られず、国民の負担は固定化されたままである。今後、日本経済が再び力強さを取り戻すためには、消費税を含めた税制度全体の見直しが必要である。たとえば、生活必需品への軽減税率の拡大、低所得者向けの還付制度の導入、あるいは景気に応じた税率の調整など、柔軟な政策運用が求められる。税制は単なる財源確保の手段ではなく、経済成長を支える重要な道具である。その本来の役割を果たすためにも、消費税の在り方を今こそ真剣に再検討すべきである。