ストロー: 絶望の淵で2025年06月16日

ストロー: 絶望の淵で
『ストロー:絶望の淵で』は、今週Netflix映画部門で第4位にランクイン。物語は、病気の娘を抱えるシングルマザーの過酷な1日を描く。彼女のもとに次々と悲劇が押し寄せ、たった数時間のうちに、生活は音を立てて崩れ去ってゆく。孤立した社会の中で、限界まで追いつめられた彼女は、誰も助けてくれない現実の前に、絶望的な選択を強いられる。終盤のどんでん返しは胸が痛むほど悲惨で、観る者に重い余韻を残す。アメリカに根づく貧困の連鎖と、その構造的な残酷さが鮮明に浮かび上がる一方で、物語の展開はあまりに不運の連続。思わず「そんなことある?」と突っ込まずにはいられないほど、ベタな脚本展開が目立つ。主人公の周囲には、上司も大家も怒鳴るばかりで、まるで怒りの人間見本市。一方の彼女も口下手で衝動的。ADHDを彷彿とさせるような言動もあり、不器用な生きづらさがにじみ出る。その“ベタな不幸”に、逆に引き込まれてしまうのは、そこにリアリティを感じてしまうからなのかもしれない。

作中、唯一彼女に寄り添おうとするのは、母子家庭で育った黒人女性刑事と、黒人の銀行支店長。彼らは偏見にとらわれず、彼女の行動の背景を理解しようと努める。対照的に、白人と警察は終始差別的に描かれており、これは反DEIへの風刺とも読めるが、やや一面的な印象は否めない。クライマックスでは、銀行に立てこもった彼女を、行員がスマホで密かにライブ配信。その映像が広まり、彼女の苦悩に市民が共感し、銀行前にデモが発生という流れもやや都合が良すぎる展開だが、娘の給食費と家賃を払うために、週払い7万円の給料を受け取りに来ただけの行動がすべての引き金だったという切なさに、市民の同情が集まるのも無理はない。

さらに、不当な解雇を言い渡された彼女が、偶然店長室に押し入った強盗の銃を奪って射殺。その後、彼女を共犯と誤解して通報しようとした上司をも撃ち殺す。血まみれの小切手を片手に銃を携えて銀行へ向かう彼女の姿を、観客は“滑稽”と笑うか、“極限まで追い詰められた母”として心を寄せるかで、大きく評価が分かれるだろう。貧困が人間の尊厳をいかに奪うかを容赦なく突きつける本作は、不器用で過剰な演出の中にも、確かに心をえぐるような真実が宿っている。
Bingサイト内検索