信用格付け2025年05月20日

ムーディーズの米国長期信用格付け
アメリカの信用格付けが引き下げられた背景には、財政赤字の拡大と債務増加がある。ムーディーズは米国の長期信用格付けを「Aaa」から「Aa1」に引き下げた。主因の一つは政府債務の急増であり、債務残高は36兆ドル、利払い費も急増している。2024年度の財政赤字は約1.8兆ドルと過去最大規模に達した。さらに、財政赤字の改善が見込めない点も影響している。議会の財政案では赤字削減が困難で、財政健全化への展望が立たないため、格付け会社は慎重な評価を下した。また、政治的要因も無視できない。ホワイトハウスはこの決定を政治的と批判したが、格付け会社は財政指標の悪化を根拠に挙げている。この格下げにより、米国債の信認低下や金利上昇が懸念され、世界経済への波及も予想される。

一方、日本の信用格付けは過去30年間で着実に下落してきた。かつて「AAA」だった日本は、1990年代のバブル崩壊以降、経済停滞と金融機関の不良債権問題に直面した。2000年代に入ると財政赤字が拡大し、2002年にムーディーズは日本の格付けを「Aa2」に引き下げた。さらに2008年のリーマン・ショック後、政府は財政支出を拡大。2011年にはS&Pが「AA-」に格下げした。2010年代以降は少子高齢化により社会保障費が増加し、経済成長率も低迷。2024年現在、日本の格付けはムーディーズ「A1」、S&P「A+」、フィッチ「A」にとどまり、ドイツやスイス、オーストラリアといった「AAA」を維持する国々との差が拡大している。これにより、日本は借入コストの上昇や市場での信頼低下を招いている。

財務省や政府が国債発行に慎重で減税にも後ろ向きなのは、この格付けが影響していると言える。ただ、他国と比較した場合、日本の格下げの背景にはより深刻な構造的要因がある。最大の要因は経済成長の鈍化だ。他の先進国がGDPや所得を伸ばしてきた一方、日本は長期的な停滞に陥った。特に1990年代以降、賃金の伸び悩みや生産性の低下が続き、政府の財政負担が増加。債務返済能力への懸念が格付けを押し下げた。この点は、経済成長ができなかったから財政赤字が拡大したのか、それとも財政赤字を恐れて投資を抑制した結果、経済成長が停滞したのかという「卵が先か鶏が先か」の議論にも似ている。

日本政府はこの30年間、財政健全化を最優先し、投資に消極的だった。バブル崩壊後は一時的に公共投資を拡大したが、1996年の橋本政権以降は緊縮財政へと転じた。2000年代には消費税引き上げや歳出抑制が進み、政府支出の伸び率は先進国中最低となった。この結果、企業の設備投資は伸びず、賃金も上がらなかった。「失われた30年」は経済産業省も認めており、国際競争力の低下が顕著だ。近年、政府は「資産運用立国」や「国内投資拡大」を掲げてはいるが、依然として減税や国債発行には慎重で、抜本的な投資拡大には至っていない。経済成長の停滞には政府の慎重すぎる財政運営が影響しているのは明らかだが、それを真に理解している官僚や政府首脳が極めて少ないことが、今後の日本経済にとって最大のリスクと言える。