津波避難指示のあり方 ― 2025年07月30日
カムチャツカ沖でM8.8の巨大地震が発生し、日本列島にも津波警報が鳴り響いた。関西では潮位1メートル程度の予測ながら、自治体はこぞって「警戒レベル4」の避難指示を発令。防災無線が騒がしくなると、人々は一斉に避難所へと押し寄せた。だがその先に待っていたのは、“命を守る場所”とはほど遠い光景だった。猛暑の中、冷房は頼りなく、水も不十分。逃げ込んだ先が「避難所という名のサウナ」では、どこに安全があるのか。うちわ片手にぐったり座り込む高齢者と子どもたち。そんな光景を私たちは、すでにニュースで何度も見せられている。この既視感。コロナ禍真っ只中の2020年、台風と豪雨が重なったあの夏。感染症対策もままならぬ避難所に「行くのが怖い」「密になるくらいなら家にいる」と、住民たちは判断を迫られた。結果、自治体の想定を上回る“在宅避難”が発生。支援も連携も届かず、見えない被災者が増えていった。それから5年。学んだはずの教訓は、どうやら記憶の彼方に消えたらしい。冷房整備率は全国平均で2割程度。災害が来るたびに、「水がない」「エアコンがない」「密になる」の三拍子が繰り返されている。
そして忘れてはならないのが、2019年の台風19号。多摩川氾濫の危機が迫る中、都内の複数自治体が「出すべきか迷った末に避難指示を出した」が、肝心の避難所が開いていなかった。行く場所がない。住民はSNSで情報を探し、右往左往。なぜ、同じ過ちが繰り返されるのか。それはひとえに、「指示は出すが環境は整えない」という、自治体の構造的な欠陥。そしてそれを支えるのが、おなじみ“横並び行政”である。
「周りが出してるから、うちも出す」「万一があったら責任を問われる」――そうした空気に押され、市町村長たちはリスク評価より“保身の空気”を優先。中身のない避難指示が乱発され、暑さと混乱が避難所を襲う。制度的な歪みも深刻だ。津波は気象庁、熱中症は環境省と厚労省、避難所整備は地方自治体――縦割り行政の迷路のなかで、複合災害への一元対応など望むべくもない。いま必要なのは、「避難指示を出した」という既成事実をつくることではない。出したあとにどんな環境を用意できるか――その責任を明確にすることである。潮位とWBGT(暑さ指数)を組み合わせた複合リスク評価、冷房有無による避難所の分類、要支援者の優先導線、環境条件を明記した避難指示文書……、やるべきことは山ほどある。
だが現実はどうか。コロナの教訓も、台風の反省も風化し、「またか」の声すら聞こえなくなりつつある。政治家は口をそろえて「防災が重要」と言うが、今年に入って何が改善されたのか。「防災に力を入れる」と言っていた某首相は、この半年でこの問題に一体どれだけ取り組んだのか。記者会見の原稿には書かれていても、避難所の天井からは冷たい風はまだ吹いてこない。
そして忘れてはならないのが、2019年の台風19号。多摩川氾濫の危機が迫る中、都内の複数自治体が「出すべきか迷った末に避難指示を出した」が、肝心の避難所が開いていなかった。行く場所がない。住民はSNSで情報を探し、右往左往。なぜ、同じ過ちが繰り返されるのか。それはひとえに、「指示は出すが環境は整えない」という、自治体の構造的な欠陥。そしてそれを支えるのが、おなじみ“横並び行政”である。
「周りが出してるから、うちも出す」「万一があったら責任を問われる」――そうした空気に押され、市町村長たちはリスク評価より“保身の空気”を優先。中身のない避難指示が乱発され、暑さと混乱が避難所を襲う。制度的な歪みも深刻だ。津波は気象庁、熱中症は環境省と厚労省、避難所整備は地方自治体――縦割り行政の迷路のなかで、複合災害への一元対応など望むべくもない。いま必要なのは、「避難指示を出した」という既成事実をつくることではない。出したあとにどんな環境を用意できるか――その責任を明確にすることである。潮位とWBGT(暑さ指数)を組み合わせた複合リスク評価、冷房有無による避難所の分類、要支援者の優先導線、環境条件を明記した避難指示文書……、やるべきことは山ほどある。
だが現実はどうか。コロナの教訓も、台風の反省も風化し、「またか」の声すら聞こえなくなりつつある。政治家は口をそろえて「防災が重要」と言うが、今年に入って何が改善されたのか。「防災に力を入れる」と言っていた某首相は、この半年でこの問題に一体どれだけ取り組んだのか。記者会見の原稿には書かれていても、避難所の天井からは冷たい風はまだ吹いてこない。