子育て まち育て 石見銀山物語2025年04月01日

石見銀山物語
教室監視カメラ導入の是非について、「希望と信頼のあるところに教育は醸成する」と書いたものの、ずっとモヤモヤしていた。たまたまこのドキュメンタリー番組を見て気持ちが晴れた。『子育て まち育て 石見銀山物語』は、世界遺産・石見銀山を抱える島根県大田市大森町を舞台に、かつて世界屈指の銀山の下町だったこの地域が、閉山後に限界集落へと衰退したものの、地域全体で子どもを育て、町を活性化させる取り組みを描いたNHKのドキュメンタリー番組である。番組では、四季折々の町の風景とともに、移住者や地元住民約400人が協力しながら子育てを行う姿が映し出される。本作は2022年から2023年にかけて春・夏・秋・冬の4回にわたって放送され、2023年1月には全話一挙再放送も実施。その後、2024年6月には特別編が放送され、2025年2月に再放送された。特別編では、大森町がどのようにして過疎地域から子どもの笑顔あふれる町へと変化したのかが改めて紹介された。制作にあたり、制作者が具体的に何からインスピレーションを受けたかは明言されていないが、大森町での地域ぐるみの子育てや移住支援、仕事と生活の一体化などの情報が影響を与えたと考えられる。例えば、町の活性化に関する書籍『過疎再生 奇跡を起こすまちづくり』(松場登美著)では、大森町の事例を通じて地方創生の可能性が示されており、本番組の背景とも共鳴する内容となっている。『子育て まち育て 石見銀山物語』は、地域コミュニティの力や移住者と地元住民の協働による町おこしの成功例を広く伝え、多くの視聴者に感動を与えた作品だ。

圧巻は、たった一人で小学校を卒業していく男子が答辞でお礼を述べる際、集落の人々への感謝を語りながら涙ぐむシーンだ。全校20数人の児童たちは、低学年までもらい泣きをする。帰り道では、集落の人たちが皆「おめでとう」と声をかけ、「泣かんかったか?」「泣いてしまいました」と正直に語るシーンも温かい。こんな地域の学校には、監視カメラは必要がない。「学校づくりは地域づくり」。かつて与謝の海養護学校の初代校長となった青木嗣夫氏の言葉を思い出す。この言葉は、障害児のための地域づくりを念頭に置いたものだが、大切なのは、教育と地域づくりは切り離してはならないという思想だ。確かに、小さな集落の学校だからといって、いじめや体罰がまったくないとは言えない。しかし、地域全体が文字通り子どもを見守り、学校を支えていれば、深刻な事態は避けられる。もちろん、その反面、集落の同調圧力は強いのかもしれないが、大森町に志を持って移り住む若い世代が、それを柔らかなものに変えていく可能性も感じる。コンビニはないが、持ち寄りの食事会がメンバーを変えて家々で開かれ、僻地のプロパンガス代は都会の3倍の値段だが、地域はさらに温かい。新入生は昨年度8名に増え、保育所の園児数も一桁増えた。その理由は、大森町の人的環境にあるのだろう。自分も子育て時代、「親子共育ち」として民間学童保育を支援してきたが、地域づくりには足がかりがなかった。大森町の幸運は、2つの中規模企業が集落への貢献も意識して存続していること、そして2007年に石見銀山が世界遺産に登録され、町ぐるみで穏やかな街を目指す地域づくりの経験を積んできたことだ。どこの地域でも同じ条件があるとはいえないが、地域の絆を深めるための努力が、子どもを育てる環境をつくるのだと言える。

119エマージェンシーコール2025年04月02日

「119番、消防です。火事ですか? 救急ですか?」消防局の通信指令センターでは、119番の緊急通報に応答し、適切に救急車や消防車の出動を指令する指令管制員たちが、一本の電話で命をつなぐ最前線に立っている。先月末に放送が終了した「119エマージェンシーコール」は、さまざまなスキルを持つ消防・救急のスペシャリスト集団である指令管制員たちの活躍を描いたオリジナルストーリーだ。救急を題材としたドラマには、「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」や「救命病棟24時」、最近では「TOKYO MER~走る緊急救命室~」などがあり、リアルな救急医療の描写と感動的なストーリー展開で高視聴率を誇る。しかし、今回のドラマは手術や災害現場の状況をほとんど映し出さず、通報者と管制員の通話を中心に物語が進行するという点が新鮮で、視聴者の想像力を引き出す構成となっている。不思議なことに、視聴を続けるうちに、いつの間にか管制員や通報者の立場に寄り添い、彼らを応援している自分に気がつく。

主人公の新人指令管制員・粕原雪を演じるのは清野菜名。フジテレビのドラマでは初主演であり、月9枠でも初主演。さらに、意外にもゴールデン帯ドラマの主演は今回が初となる。清野菜名は、映画「キングダム」シリーズ(2019~)において、「キングダム2 遥かなる大地へ」(2022)から飛信隊副長・羌瘣(きょうかい)役を演じ、アイドルスターではなくアクションスターとしても注目を集めた。今回のドラマでは、新人管制員として奮闘し、上司や先輩に励まされながら成長する姿を見せる。劇中では、彼女の特技として背景音や人物の声を特定する能力が描かれるが、これは物語の本質とは関係が薄く、やや不要に感じられた。しかし、それを差し引いても、管制員の使命感やひたむきな姿勢が彼女の演技を通してよく伝わってきた。このドラマの制作経緯は公にはされていないが、NHKが以前放送した同名のドキュメンタリー番組に触発された可能性がある。人命を救うためにバックヤードで働く人々に光を当て、その支えによって救命に協力する市民の姿を描いた、秀逸な作品であった。

トランプ高関税発動2025年04月03日

トランプ高関税発動
トランプ米大統領は「相互関税」と称する関税措置を発表し、すべての貿易相手国に最低10%の関税を課す方針を示した。さらに、貿易赤字や貿易障壁を考慮し、追加の税率を設定するとした。この措置は米東部時間4月5日未明に基本部分が発効し、9日未明から各国への追加関税が適用される。トランプ氏は日本市場の閉鎖性を批判し、日本のコメには700%の関税が課されていると指摘。日本に24%、EUに20%、中国に34%の関税を設定すると説明した。政府高官は「巨額で慢性的な貿易赤字」が問題であるとし、「緊急事態」を宣言する文書に署名したと述べた。また、相互関税の追加分は貿易赤字の規模や非関税障壁を考慮して算出され、「最悪の違反者」とされる60カ国以上に高い税率が適用される。この措置により貿易摩擦の激化や世界経済への影響が懸念されている。トランプ氏は演説で「今日は長く待ち望んだ解放の日だ」と述べ、相手国に課す税率を示したボードを掲げるなど、強硬な姿勢を示した。さらに、日本車には25%の追加関税を課すとし、日本政府は引き続き米国との交渉に臨む方針を示している。しかし、トランプ氏や米国共和党の真の意図は不透明である。米国製造業の復活を目的とした高関税政策とされるが、高関税は他国からの輸入品価格を引き上げるため、米国内の供給が追いつくまでの間、インフレを引き起こす要因となる。政府が関税収入を国内減税に充てるとしても、輸入量の減少による供給不足がさらなるインフレを招く可能性がある。その結果、関税収入の減少が避けられず、この政策がうまく機能するとは思えない。

一方、各国は米国への輸出依存を減らし、非関税の市場への転換を模索すると考えられる。インフレによって高騰した米国製品は競争力を失い、結果的に中国やインドなどの製品が市場を席巻する可能性が高い。これにより、米国が中国の経済拡大を抑えようとする意図とは逆の現象が起こり、米国抜きのサプライチェーンが形成される契機となるかもしれない。もちろん、米国には世界が追随できないデジタル産業や宇宙・エネルギー産業が存在し、今後もこれらを主要な収益源とすることが予想される。しかし、民生製造業の復活は容易ではない。日本はいつまでも米国に依存するのではなく、大企業は600兆円に達する利益剰余金の半分でも活用して大幅な賃上げを実施し、政府は大幅な減税を行い、国民の可処分所得を増やすことで購買力を強化すべきである。また、政府投資の制限となっているプライマリーバランス論を捨て、積極的な公共投資を推進することが重要だ。日本のGDPの約6割は国内消費が占めるため、これを拡大する努力こそが必要である。米国の高関税政策に振り回されても、決定権は米国にあるため、先行きは極めて不透明である。それよりも、この機を国内生産と消費を伸ばす好機と捉え、政策を展開していくべきだ。しかし、頑なに減税を拒み負担増だけを求め激動する世界情勢の中で何をしたいのかわからぬ現政治体制では、その実現は難しい。

尹錫悦大統領罷免2025年04月04日

尹錫悦大統領罷免
韓国の憲法裁判所が尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の罷免を決定した翌日、韓国の主要紙はこの判断を高く評価し、国民の統合を呼びかけた。今回の判断は裁判官全員一致で下され、保守系・革新系を問わずメディアはその正当性と重みを強調した。革新系のハンギョレ新聞は「大統領弾劾は市民の常識と憲法的熱望の勝利」と評し、京郷新聞は「無血の市民革命」と称賛。社説では、民主主義が危機に瀕するたびに国民の力でそれが立て直されてきたと述べている。一方、保守系の朝鮮日報は、昨年12月の非常戒厳から約4カ月にわたり、社会が「心理的内戦状態」と言えるほど分断されたと指摘し、次期大統領候補に対して国民統合への努力を求めた。憲法裁は、戒厳の違憲性や軍を用いた国会封鎖の試みなど、弾劾訴追の主要な争点について全面的に認定。中央日報は「すべての議論に終止符を打った」と強調し、政治家や国民に決定を受け入れるよう呼びかけた。尹氏は、2017年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領に続き、史上2人目の弾劾罷免された大統領であり、韓国の憲政史に再び大きな傷跡を残すこととなった。朝鮮日報は現行の大統領制について、与党と野党の極端な対立を生む「無限政争構造」と批判し、大統領選後の改憲を提案している。大統領制は、大統領が国民から直接選ばれ、議会と分立して強い権限を持つため、リーダーシップが安定し迅速な意思決定が可能である。一方で、行政府と議会の対立や権力集中による独裁化のリスクが課題となる。議院内閣制は、首相が議会多数派から選ばれるため政策の一貫性が高く、政権交代も柔軟に行える点が特徴だが、政権の不安定さや連立政権に伴う複雑性、首相の権限制限などの課題もある。いずれの体制も国の実情に即した運用が求められる。

尹大統領の戒厳令発布は、たとえ多数野党による政争に起因したとしても、それを「内乱」と断じたこと自体に大きな問題がある。一方、米国のトランプ大統領が議会承認を経ずに関税政策を進めた例も、「武器なき世界戦争」の始まりとも言え、民主主義としての正当性に疑問が残る。大統領制は、トップが自制的でなければ国内外に分断をもたらすリスクがある。ただし、議院内閣制も行政のコントロールが難しく、選挙を経ない行政官の意向が反映されやすいという点で、必ずしも民主的とは言い切れない。どちらの体制が優れているとは一概に言えないが、いずれも国民の支持が得られなければ政権は交代するため、独裁国家よりははるかに健全である。ただし、マスメディアによる恣意的な偏向報道は、国民の判断を誤らせる恐れがあるため、まずは報道の民主的な手続きを優先的に見直すべきである。

浪人会2025年04月05日

浪人会
大学時代、「浪人会」と名乗って仲間を作っていた。受験浪人や就職浪人ではない。主君に仕えることなく、自らの信念で生きる武士、すなわち“浪人”の精神をなぞらえてのネーミングだった。自由で自主独立を良しとする、そんな生き方を志すというまことに青臭いネーミングだ。あれから四十五年。その仲間たちと久々に泊まりがけの集まりを開いた。といっても、特別な目的があるわけではない。ただ同じ思い出話を何度も繰り返しながら、酒を酌み交わすだけの会だ。「俺たち、もう“老人会”になっちゃったな」と笑い合う。そう、今や“浪人”から“老仁”への移行期である。仲間の多くは、故郷に戻って田畑を引き継ぎ、プロの百姓としてのシニアライフを楽しんでいる。田舎では、地域の檀家制度や近所づきあい、行事ごとなど、あれこれと役回りが多い。その分、都会では味わえない“濃い”人間関係がある。正直、うらやましいと思うこともある。年を重ね、引きこもりがちになる都会暮らしと、何かと忙しく人と関わらざるを得ない田舎暮らし。どちらが良いかは人それぞれだが、少なくとも後者の方が自然な形で社会とつながり続けられるのかもしれない。

都会に残った仲間のひとりは、平和運動に取り組んでいると話してくれた。都市生活では、自ら関わる理由を作らなければ人との接点はなかなか生まれない。けれど、田舎ではそうした理屈は不要だ。人と人との関係が、暮らしの一部として当たり前に続いていく。女性は場所に関係なく関係性を育むのが上手だが、役割や理屈がなければ関係を作りにくい男性にとって、年をとってからの田舎暮らしは案外、生きやすいのかもしれない。今回の宿は、京都から百キロほど離れた山里にあった。帰りの車窓から見えた満開の桜は、まるで過去と現在をやさしくつないでくれるようで、しばし見惚れた。今日は町内イベント団体の花見が近所の公園で開かれる。二日連続の飲み会はやや堪える年齢になったが、顔を出して、細くとも人との絆をつないでおこうと思いながら、ふたたび街へと戻っていく。

赤ちゃんポスト2025年04月06日

赤ちゃんポスト
東京・賛育会病院が、「赤ちゃんポスト」と「内密出産」の受け入れを始めると発表した。これは都内初の試みになる。赤ちゃんポストは、生まれたばかりの赤ちゃん(生後4週間以内)を、名前も名乗らずに預けられる仕組み。内密出産は、出産する女性が身元を完全には明かさず、一部の医療スタッフだけに知らせて出産できる制度だ。どちらも、予期せぬ妊娠や孤立出産、そして最悪のケースである嬰児遺棄を防ぐことを目的としている。病院は東京都や墨田区と連携して運営にあたる。この分野で先行してきたのが、熊本市の慈恵病院だ。同院の蓮田健理事長は、今回の賛育会病院の方針に対し、「内密出産の費用を本人に請求するのは残念だ」と率直に批判。理念を大切にすべきだとして、慈恵病院では経済的に厳しい人の出産費用は病院側が負担しているという。ただし、この「理想の姿」にも異論はある。赤ちゃんポストにしても内密出産にしても、母親の身元が不明だったり、経済状況がつかめなかったりするケースが多い。当然、医療費の負担は病院が背負うことになる。それだけでも大変だが、もっと難しいのは「健保未加入」や「生活保護が受けられない」などの在留資格を持たない違法滞在者による出産についてだ。こうなると「医療費は病院持ちで当然」と言い切ることには、社会的にも疑問の声が出てくるのは自然なことだ。ここでは、未成年の予期せぬ妊娠といった別の問題は脇に置いておきたい。

健保料が未払いの人や、生活に困っている人たちには救済策がある。申請すれば健保組合や自治体の補助が出ることもあり、出産費用がゼロになるケースもある。これは病院側が丸損しないための制度でもある。でも、その仕組みにも当てはまらない違法滞在者の出産まで、「赤ちゃんに罪はないから」と無償対応を求めるのは、果たして“正義”なのかどうか。出産する女性を守るべきだという思いに異論はないが、「人権」や「平等」といった言葉が独り歩きして、制度が無限に広がっていけば、今度は「ただ乗り」を許す仕組みになってしまう。その結果、制度を支えている多くの国民の気持ちが離れていくかもしれない。たしかに、こうしたケースにかかる医療費は、全体から見ればごくわずかかもしれない。それでも、「なんだか納得できない」と感じる人が多いのも現実だ。そもそも、この問題の根っこには、入国管理や外国人政策の不備があり、病院や自治体に全部対応を押しつけるのは違う。国がルールを整え、現場を支える仕組みをつくる必要がある。政府も今、法整備に向けて動き始め、海外の事例も調べているという。「困っている人を助けたい」――その気持ちは間違っていない。でも制度がきちんと回ってこそ、本当の意味で“優しさのある社会”は実現できるのではないか。いま必要なのは、感情だけに流されず、理念と現実のバランスをとった冷静な議論だ。

ETC障害2025年04月07日

ETC障害
4月6日未明、中日本高速道路は東京、神奈川、愛知など8都県にまたがる料金所でETCシステムの障害が発生したと発表した。影響は106か所に及び、約38時間にわたってETCが利用できない状態が続いた。7日には応急的な復旧が完了し、すべての料金所が再開されたという。混雑を緩和するため、一時的に精算を後回しにして通行を許可する対応がとられたが、通行料金は後日精算となり、利用者には公式サイト上での支払い案内がなされた。だが、これを「スムーズな対応」と受け取れる人は多くないだろう。障害の原因とされるのは、5日に実施されたETC深夜割引の見直しに伴うシステム改修作業だという。単なる“割引時間帯の変更”という、20年以上も運用されてきた制度におけるルールの一部修正で、システム全体が約2日間も機能不全に陥ったことには驚かされる。そもそもこの夜間割引は、2001年に導入された制度で、深夜帯の交通分散を目的としたものだった。対象時間は当初0時~4時、そこを走れば通行料が30%割引になる仕組みだ。今回の見直しでは、その時間帯を22時~5時へと拡大。しかし、これで果たして実効性はあるのか。というのも、割引時間を狙ってインターチェンジ付近の路肩などで不法駐車をして待機する長距離トラックの姿は以前から問題となっており、時間の前倒しでこの習慣がなくなるとは思えない。また、夜間の割引を最大限に活かすため、休憩も取らずに高速道路を走り続ける運送業者も少なくない。今回の改定により、割引時間が都合3時間延びたことで、安全面の懸念はむしろ増したのではないか。

そもそもETCは、時間と距離のデータを正確に記録できるシステムである。であれば、割引の条件に「適度な休憩」や「安全運転」を組み込むことも技術的には可能なはずだ。例えば、平均的な到達時間を超えた車両に対してのみ、深夜割引を適用するといった工夫も考えられる。今回のETC障害は、単なる技術的な不具合では済まされない。障害の最中にもかかわらず、「後日支払いを」という通知がなされる。遅延やトラブルの原因を作った運営側が、利用者に“迷惑料”どころか“請求”をするという構図には違和感がある。同日、ゆうちょ銀行の通信システムでも午前中に障害が発生し、送金に支障が出た。ETCにせよ金融ネットワークにせよ、今や社会インフラそのものであり、ひとたび止まれば全国規模で影響が出る。こうした状況下で、なぜ確実なバックアップ体制が整えられていないのか。高速道路会社もゆうちょ銀行も、もともとは道路公団や郵政公社といったお役所組織の流れをくむ会社だ。前例主義が根強く、危機管理や改革のスピードが鈍いのではと疑いたくもなる。システムは「人間が作ったものである以上、絶対はない」。そうはいっても、繰り返される不具合に、国民はいつまで“慣れ”を強いられなければならないのだろうか。今こそ、制度とシステムの両面で「安心して使える仕組み」への見直しが求められている。

1リットル10円補助2025年04月08日

1リットル10円補助
政府・与党は、6月からガソリン価格を抑えるため、1リットルあたり10円の定額補助を導入する方向で検討している。現在の価格水準から見れば、確かに一定の値下がり効果は見込まれる。しかし、1リットルあたり25円10銭の「暫定税率」の廃止を求める野党の反発は必至だ。政府はガソリンの全国平均価格を185円程度に抑える方針を掲げ、夏の参院選を見据えた「国民負担の軽減」をアピールする構えだ。財源は既存の基金を活用し、追加の予算措置は講じないとしている。昨年12月には、自民・公明・国民民主の3党が「暫定税率の廃止」で合意した。しかし、あれから半年、具体的な廃止時期は棚ざらしのまま。6月から来年3月末まで、価格を引き下げることだけは決めたようだ。だが、現実を見れば、その「効果」には疑問符がつく。市中のガソリンスタンドでは185円程度の価格が一般的。そこから10円引いたとしても、満タン給油でせいぜい500円程度の差だ。原油価格も同時株安でやや下がってはいるものの、1バレル5ドルの下落では2円分程度しか値下がりしない。しかも、その上に「暫定」の名を借りた税金がどっしりとかかる。結局、庶民の負担は「雀の涙」ほども軽くならない。そもそもこの暫定税率、1974年の石油危機を受けて「一時的措置」として導入されたものだ。それが50年経っても存続している。

昨年の与党合意ですら実行されないまま先送り。もはや「暫定」とは、政治が怒りの火消しに使う“魔法の言葉”と化している。政府は「地方財政への影響がある」と繰り返すが、インフレの影響で地方税収も軒並み増加している今、果たしてどれだけの自治体が「あと1年、暫定税率を維持してほしい」と訴えているのか。どう見ても、理由をこじつけて、少しでも多く徴収したいという国の思惑が透けて見える。そして忘れてはならないのが、ガソリンだけではないということだ。日本の電力の約7割を火力発電が占める中、電気代の高騰も深刻な問題となっている。この夏、光熱費がどれだけ跳ね上がるのか、考えるだけで寒気がする。世界経済も安定にはほど遠い。トランプ関税への報復として中国が同率の関税を発表し、世界は同時株安に突入。日経平均は3月の3万9千円から、既に8千円も下落した。賃上げが進んだとはいえ、物価高に追いつけず、実質賃金は先月もマイナス。インフレと景気後退が同時に襲う「スタグフレーション」の足音がひたひたと迫っている。それでもなお、「10円の補助」でしのげるとでも思っているのだろうか。減税には背を向け、実効性の乏しい支援策でやり過ごそうとする石破内閣に、果たして危機を乗り越える力はあるのか。いま、国民が求めているのは、言葉のごまかしではなく、現実に即した政策だ。即刻、退場を願いたい。

通信制高校約29万人2025年04月09日

通信制高校約29万人
令和6年度の通信制高校の生徒数は約29万人に達し、この10年間で約1.6倍に増加した。現在では高校生のおよそ10人に1人が通信制に在籍している。この背景には、コロナ禍を契機とした不登校の増加がある。近年では、角川ドワンゴ学園の「N高」など、多様なコースを提供する通信制高校が増加し、オンライン学習や個別指導といった新たな教育スタイルが広がっている。これにより、難関大学への進学実績やスポーツ分野での成果も注目されるようになった。文部科学省の統計によれば、令和5年度の不登校高校生は過去最多の6万8,770人に達しており、不登校の拡大とともに通信制高校の認知度も上昇している。一方、全日制高校の生徒数は減少傾向にあり、通信制高校の存在感はますます高まっている。通信制高校では、オンライン学習の活用により、生徒が自分のペースで学習を進められる柔軟性が評価されている。これにより、受験勉強やアルバイトなどとの両立も可能となり、多様なニーズに応える教育形態として注目を集めている。大学進学率については、通信制高校では21.2%と全日制に比べて依然として低いものの、近年は上昇傾向にある。なお、通信制高校は必ずしも不登校生の受け皿に限られたものではなく、多様な背景を持つ生徒が在籍している。ここで、中学校卒業生の進路全体を見てみると、年間約105万人の中学卒業生に対して、単純計算で生徒数は約315万人(3学年分)とされる。しかし、高校在籍者数は約290万人であり、約25万人が高校教育からこぼれ落ちている計算になる。

この25万人のうち、専門学校や特別支援学校などに進学した生徒も一部含まれると推定されるが、それでも進学しなかった生徒は約18万人、全体の6%程度に上る。この6%の子どもたちの進路実態はほとんど把握されておらず、今後の大きな課題である。また、中学校で不登校だった生徒のうち、高校進学後も安定した就労に至らないケースが多い。統計的推計によれば、高校進学から漏れた約6万人のうち5割、つまり3万人が就労に至らない可能性がある。これが毎年続けば、40年間で約120万人が就労できないまま過ごすことになる。これは、日本の40年後の就労人口約5300万人に対して約2%が恒常的に非就労者となる計算であり、3880万人に達する高齢者人口と合わせると、就労世代と非就労・高齢世代がほぼ近づいていくことを意味する。したがって、不登校の子どもたちに適切な後期中等教育(高校教育や職業教育)を保障することは、単なる教育福祉の問題にとどまらず、国全体の総生産額・総消費額、ひいては「国力」の維持に直結する重要課題である。授業料一律無償化は通信高校生も恩恵は被るが、教育機会からこぼれ落ちた子供には届かない。私学や通信制高校の増加は逆に言えば、公教育への失望が増えているとも言える。義務制の小中学校の段階や公立高校に向け、柔軟な教育機会の保障と進路保障ができるように、重点的に投資をすることが、今後の教育政策の要となるべきである。

ブルーインパルス2025年04月10日

ブルーインパルス
大阪・関西万博の開幕を前に、航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が予行飛行を行った。大阪の空に彼らの姿が舞うのは、平成2年の国際花と緑の博覧会以来、実に35年ぶりのことらしい。午前11時40分ごろ、関西国際空港を飛び立ち、府南部を経由して大阪城や万博公園の太陽の塔といった、街の象徴をなぞるように飛行していった。展示飛行は正午から15分間。今回の万博会場である夢洲(ゆめしま)の上空に、白いスモークが描く軌跡が広がった。すべては、万博の開幕を華やかに彩る一幕として企画されたものだ。ちょうど私は太陽の塔の近くのショッピングモールに立ち寄った。いつもは閑散としている立体駐車場が満車で、「何かあるのかな?」と不思議に思いながら屋上階へ上がると、たくさんの人が空を見上げていた。その視線の先に、思い出した。ああ、今日はブルーインパルスが飛ぶ日だった。爆音とともに、6機の編隊がスモークを吐きながら空を駆け抜けていく。わずか5秒ほどの出来事だったけれど、その一瞬に目を奪われた。飛行機雲の向こうに、万博のはじまりの気配が見えたような気がした。

思えば数年前、コロナ禍のさなかに、ブルーインパルスが医療従事者への感謝と励ましを込めて飛んだことがあった。あの時は涙が出た。空に浮かぶその姿が、人と人とが支え合う象徴のように感じられて。今回もまた、「大阪万博、がんばれよ」とエールを送るような飛行だったのだろう。きっとあの空を見上げた多くの人が、その想いに応え、会場へと足を運ぶのだと思う。それにしても、ひととおり空を眺め終えた人たちが、誰も彼もぞろぞろと帰っていくのがちょっと可笑しかった。「あれ、買い物はしないの?」と、心の中でツッコミを入れる。スーパーの棚には、5キロ4300円の米がずらりと並んでいた。備蓄米を放出しても全然安くならないなあ、と思いつつ、ふと思い浮かんだ。いっそ「米をもっと作ろう!」というメッセージで、ブルーインパルスがまた空を飛んでくれたら面白いのに。そんな突拍子もないことを考えながら空を見上げた。
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