“日の丸半導体”は復活するか ― 2025年09月13日
北海道・千歳に建設されたラピダスの新工場で、2ナノメートル世代の半導体試作品が完成──2025年7月、日本の半導体業界に久々の「やっと出たか!」という朗報が舞い込んだ。トヨタ、ソニー、NTT、ソフトバンクなど大手8社が資金を出し、政府も1兆円超の補助金を投入する“国策企業”ラピダス。技術的には確かにブレイクスルーだ。しかし、拍手喝采はまだ早い。技術の成功とビジネスの成功は別物である。ラピダスが世界の荒波に揉まれ、真に生き残れるかは、まったく別の問題だ。
思い出してほしい。JDI(ジャパンディスプレイ)やJOLEDの悲劇を。JDIは液晶パネルでAppleに部品を供給していたが、Appleが有機ELに切り替えた途端、需要は激減して奈落の底。JOLEDも独自の印刷方式有機ELを持っていたが、量産化に失敗し2023年に民事再生申請となった。共通するのは、政治優先・補助金依存の硬直体質だ。雇用や既得権益を守ることが最優先で、技術転換や撤退の判断は常に後手に回る。ラピダスも例外ではない。設立時の民間出資はわずか73億円。試作成功後も追加出資は鈍く、市場はその脆弱性を見抜き、資金を渋る。過去の轍を踏むのではないかと懐疑的な声も多い。
ラピダスに立ちはだかる壁は二つある。まず、営業力の弱さ。米IBMとの提携で最新技術は手に入れたが、それを世界中の顧客に売り込む体制は未整備。TSMCやサムスンは、単なる技術力だけでなく、顧客のニーズを細やかに把握し、長年かけて巨大なネットワークを築いてきた。後発のラピダスが「技術あります!」と胸を張ったところで、この牙城を崩すのは容易ではない。次に国内需要の問題だ。いくら国内に最先端工場を作っても、大量に購入してくれる顧客がいなければ意味がない。かつての家電・PCメーカーが主要顧客だった時代は終わった。今の半導体市場を牽引するのはスマホ、データセンター、AIチップを作る企業だ。ラピダス製品を必要とする国内需要は、まだ育っていない。
さらに、政府の一社集中投資という考え方は時代遅れだ。特定企業や技術に巨額を投じ、それが陳腐化すれば全て水の泡。JDIの失敗がその証左だ。液晶にすべてを賭け、Appleが有機ELに移行した瞬間、あっという間に消えた。本当に必要なのは、企業や技術に偏らない分散型のポートフォリオ戦略である。ラピダスの先端ロジック半導体だけでなく、MRAM(磁気抵抗メモリ)、パワー半導体、センサーといった多様な分野への分散投資が欠かせない。
MRAMは次世代の不揮発性メモリで、電源を切ってもデータが消えず、AIやIoT機器の省エネ化に直結する。日本企業は磁気薄膜の微細加工技術に長け、量産化のノウハウも世界屈指。大電力需要の世界の懸念を一気に解決する決め手ともなる。パワー半導体は電気自動車や再生可能エネルギーの心臓部で、高電圧・高耐久デバイスの製造と品質管理で日本は世界的に評価される。センサーも、MEMS(超小型電気機械)技術で世界シェアを握る企業が多数あり、設計から製造、検査までトータルで強みを持つ。こうした技術を組み合わせることで、再び日の丸半導体が世界市場で復活する可能性がある。
ラピダスに続く第二、第三の矢がなければ、日の丸半導体はあっという間に「失敗作」の烙印を押されるだろう。政府は一社集中の幻想を捨て、真の成長戦略を描けるのか。先見の明のある企業トップに任せ、官僚は余計な口出しをせず、政府は分散投資型ポートフォリオ戦略、人材供給、安価な電源確保に集中すべきだ。三菱のスペースジェットのような無様な撤退劇は、二度と見たくない。
思い出してほしい。JDI(ジャパンディスプレイ)やJOLEDの悲劇を。JDIは液晶パネルでAppleに部品を供給していたが、Appleが有機ELに切り替えた途端、需要は激減して奈落の底。JOLEDも独自の印刷方式有機ELを持っていたが、量産化に失敗し2023年に民事再生申請となった。共通するのは、政治優先・補助金依存の硬直体質だ。雇用や既得権益を守ることが最優先で、技術転換や撤退の判断は常に後手に回る。ラピダスも例外ではない。設立時の民間出資はわずか73億円。試作成功後も追加出資は鈍く、市場はその脆弱性を見抜き、資金を渋る。過去の轍を踏むのではないかと懐疑的な声も多い。
ラピダスに立ちはだかる壁は二つある。まず、営業力の弱さ。米IBMとの提携で最新技術は手に入れたが、それを世界中の顧客に売り込む体制は未整備。TSMCやサムスンは、単なる技術力だけでなく、顧客のニーズを細やかに把握し、長年かけて巨大なネットワークを築いてきた。後発のラピダスが「技術あります!」と胸を張ったところで、この牙城を崩すのは容易ではない。次に国内需要の問題だ。いくら国内に最先端工場を作っても、大量に購入してくれる顧客がいなければ意味がない。かつての家電・PCメーカーが主要顧客だった時代は終わった。今の半導体市場を牽引するのはスマホ、データセンター、AIチップを作る企業だ。ラピダス製品を必要とする国内需要は、まだ育っていない。
さらに、政府の一社集中投資という考え方は時代遅れだ。特定企業や技術に巨額を投じ、それが陳腐化すれば全て水の泡。JDIの失敗がその証左だ。液晶にすべてを賭け、Appleが有機ELに移行した瞬間、あっという間に消えた。本当に必要なのは、企業や技術に偏らない分散型のポートフォリオ戦略である。ラピダスの先端ロジック半導体だけでなく、MRAM(磁気抵抗メモリ)、パワー半導体、センサーといった多様な分野への分散投資が欠かせない。
MRAMは次世代の不揮発性メモリで、電源を切ってもデータが消えず、AIやIoT機器の省エネ化に直結する。日本企業は磁気薄膜の微細加工技術に長け、量産化のノウハウも世界屈指。大電力需要の世界の懸念を一気に解決する決め手ともなる。パワー半導体は電気自動車や再生可能エネルギーの心臓部で、高電圧・高耐久デバイスの製造と品質管理で日本は世界的に評価される。センサーも、MEMS(超小型電気機械)技術で世界シェアを握る企業が多数あり、設計から製造、検査までトータルで強みを持つ。こうした技術を組み合わせることで、再び日の丸半導体が世界市場で復活する可能性がある。
ラピダスに続く第二、第三の矢がなければ、日の丸半導体はあっという間に「失敗作」の烙印を押されるだろう。政府は一社集中の幻想を捨て、真の成長戦略を描けるのか。先見の明のある企業トップに任せ、官僚は余計な口出しをせず、政府は分散投資型ポートフォリオ戦略、人材供給、安価な電源確保に集中すべきだ。三菱のスペースジェットのような無様な撤退劇は、二度と見たくない。